最近のトラックバック

無料ブログはココログ

« 1980年代後半のイギリス空軍(RAF) | トップページ | 1990年代前半のイギリス空軍(RAF) »

2020年10月 4日 (日)

1980年代のイギリス海軍航空隊(FAA)

今回は1980年代のイギリス海軍航空隊(FAA)とその活躍の舞台であるイギリス海軍の空母の状況についての概要です。
これまでと同様に、ウィキペディア英語版と英語サイト「ウィングス-アビエーション」、雑誌「世界の傑作機」を情報ソースとして纏めてみました。

では最初に1981年末時点でのイギリス海軍航空隊の800番台実戦飛行隊の概要です。

戦闘攻撃飛行隊:3個
BAE・シーハリアーFRS.1飛行隊 x 3個(800 801 899の各飛行隊)

イギリス海軍最後の艦隊空母「アークロイヤル」の退役に伴って1978年末に消滅したFAAの固定翼戦闘機部隊でしたけれど、1980年3月に司令部飛行隊の899NASとシーハリアー最初の実戦飛行隊800NASが再編され、この年の初めに801NASが編成されてFAAの800番台シーハリアー部隊は実戦二個、機種転換一個の三個飛行隊体制が確立し、この体制が基本的に続いていきます。
1982年4月に生起したフォークランド紛争では、南大西洋に出撃する空母「ハーミーズ」に800NASのシーハリアー12機、1980年7月に竣工し翌年から実働体制に入っている軽空母「インヴィンシブル」に801NASのシーハリアー8機が乗艦していました。
この二隻の空母を主力とする機動部隊のイギリス本国出撃後、FAAは在庫のシーハリアーとパイロットをかき集めて第三の実戦飛行隊809NASが編成され、同隊のシーハリアー8機は大型輸送船「アトランティック・コンベア」に乗船して作戦海域に運ばれて、「ハーミーズ」と「インヴィンシブル」に4機ずつ別れて移乗しています。
紛争勃発当初は特に海外からその戦闘能力についていささか疑念を持って見られていたシーハリアーですが、その運用実績は目覚しいもので当のイギリス海軍が危惧した航空戦による損耗も無く、長期作戦中の母艦における保守整備についても問題は無いのが確認されました。
この紛争におけるシーハリアーの目覚しい活躍で、イタリアは建造中の小型空母へのハリアー導入を決定し、スペインはハリアー運用を前提とした軽空母を建造。
インド海軍はこの紛争前にシーハリアーの導入を決定していましたが、紛争におけるシーハリアーの活躍に自分たちの判断は間違っていなかったと胸をなで下ろしたことでしょう。
対戦相手のアルゼンチンにとっては、フォークランド「奪還」に対する目の上のコブであった空母「アークロイヤル」が1980年にスクラップ売却されて、これで勝算アリという判断だったのにたった28機のシーハリアーに苦も無く捻られてしまって絶句してしまったことでしょうね。

対潜ヘリコプター飛行隊:推定7個:
ウェストランド・シーキング飛行隊 x 5個(814 819 820 824 826の各飛行隊)
アグスタウェストランド・リンクスHAS.2飛行隊 x 1個(815飛行隊)
ウェストランド・ワスプHAS.1飛行隊 x 1個(829飛行隊)

シーキングはこの時期は当時の最新バージョンであるHAS.5が主力であったと思われますが、全ての飛行隊がHAS.5に更新されていたかどうか特定はできませんでした。
フォークランド紛争では、空母「ハーミーズ」に826NAS、「インヴィンシブル」に819NASが乗艦して機動部隊周辺の対潜警戒任務に就いています。

ワスブに代わって駆逐艦やフリゲートに展開する英仏共同開発のリンクスはこの年から部隊就役を開始しています。
フォークランド紛争では早くも実戦を体験していて、小型のシースクア空対艦ミサイルを用いてアルゼンチンの哨戒艦を攻撃しています。
リンクスはセンサーを一切搭載していなかった前任のワスプと異なり、対水上レーダーと磁気探知機(MAD)を搭載していますがソノブイシステムは無く、ディッピングソナーもFAAでは運用しなかったとの事。
ディッピングソナーについてはシーキングに任せるとしても、ソノブイの運用能力が無いのは対潜任務上どうなんだろうかと疑問に感じるところなのです。
ソノブイによるパッシブ対潜戦術も空母搭載のシーキングで行い、駆逐艦やフリゲートに搭載されるリンクスは対潜というよりは海上哨戒及び攻撃を主任務としていたのかどうか。
この辺の明確な答えは英語サイトを見てもイマイチはっきりしないところがあるので、今後出るであろう「世界の傑作機 ウェストランド・リンクス」かイカロスのムック本に期待したいところです。

輸送ヘリコプター飛行隊 x 2個
ウェストランド・シーキングHC.4飛行隊 x 1個(846飛行隊)
ウェストランド・ウェセックスHU.5飛行隊 x 1個(845飛行隊)
フォークランド紛争では846NASが空母「ハーミーズ」に乗艦してコマンドー輸送任務に就いています。
845NASも作戦に参加してSAS(イギリス陸軍特殊空挺部隊)の作戦支援にも当っていますが、乗艦した船については特定できませんでした。
845NASは紛争終結後にシーキングHC.4に機種改編したので、FAAのウェセックスにとってはこの戦いが第一線から身を引く花道になったのです。

なおこの紛争前後には前述のシーハリアー飛行隊809NASの他に、下記のヘリコプター飛行隊が編成されています。
825NAS(シーキングHAS.2装備、1982年5月-9月)
847NAS(ウェセックスHU.5装備、1982年5月-9月)
これらのヘリコプター飛行隊はイギリス海軍補助艦隊(RFA)所属のヘリコプター支援艦「エンガディン」と紛争勃発でイギリス海軍に徴用されたコンテナ船「アトランティック・コーズウェイ」に乗艦してフォークランドに展開しています。

これら航空隊が展開する空母は「ハーミーズ」と最新鋭艦の「インヴィンシブル」の二隻で、フォークランド紛争では縦横無尽の活躍だったのは皆様ご存知の通りです。
フォークランド紛争勃発直後にイギリス海軍は航空機運用艦の急速増強を図り、予備艦の「ブルワーク」(対潜コマンドー母艦、1981年4月退役)と対潜ヘリコプター巡洋艦「タイガー」(1978年4月退役)と「ブレイク」(1979年退役)について再就役の可否について調査を行います。
「ブルワーク」は退役直前に起きた火災事故のダメージが予想以上に大きくて、再就役には最短で八ヶ月かかるという結論。
「タイガー」と「ブレイク」は「ブルワーク」とは逆に船体の状態が良いので急遽ドライドッグに入渠させて再就役工事の準備に入ります。
海軍としてはこの二隻を6インチ主砲による対地砲撃と、艦後部の広いヘリコプター甲板を利用してシーハリアーやハリアーの中継基地として使う事を意図していたそうです。
ハリアー一族の戦闘行動半径にやや不安があり、空中給油機を持っていないイギリス海軍にとっては、空母の前方に発着拠点を展開する事は貴重なシーハリアーやハリアーの損耗を避けられるのでそれなりの合理性はある話です。
しかしこの二隻は退役の大きな原因になった、運用に人手がかかるという早期再就役に極めてマイナスの要素が付き纏い、さらにアルゼンチン海軍の大型巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」がイギリス海軍の攻撃型原潜「コンカラー」に雷撃されて撃沈され、多くの死傷者を出す大惨事を目の当たりにして作業は断念されています。
「タイガー」と「ブレイク」が再就役した場合は想定される任務上、機動部隊本体からかなり前方(フォークランド寄り)に展開する必要がありますが、その場合対潜については機動部隊本体の対潜ヘリの充分な護衛を得られるか問題になります。
護衛のフリゲートは当然付けるでしょうけれど、機動部隊の護衛だけで相当な数の駆逐艦やフリゲートを回しているイギリス海軍にとって、これ以上の兵力を割く余裕があるのか否か。
また「ヘネラル・ベルグラーノ」も一応駆逐艦に護衛されていてあの大惨事だったのです。
もし充分な対潜護衛が付けられない状態で「タイガー」や「ブレイク」がアルゼンチン海軍の潜水艦から攻撃されたら・・・。
それで大きな人的犠牲が出ることをイギリス政府及び海軍は懸念したのでしょうね。

イギリス海軍はフォークランド紛争前には空母三隻体制は財政的に難しいとして、既に建造中の「イラストリアス」「アークロイヤル」を維持して「ハーミーズ」と「インヴィンシブル」は海外売却とする方針を固めていました。
「インヴィンシブル」がオーストラリア海軍の空母「メルボルン」の後継艦として売却することが内定し、紛争勃発直前にはオーストラリア海軍の将兵が訓練の為にイギリスにやってきていたのです。
しかし紛争の結果、NATOの一員としての対潜任務とフォークランドに代表される海外領土の防衛には三隻保有二隻稼動体制が必要と判断され、「インヴィンシブル」のオーストラリアへの売却は1983年7月に中止とされて、代わりに「ハーミーズ」の売却が提案されます。
しかし「ハーミーズ」は1960年代半ばに、当時「メルボルン」を近代化改装して維持すべきかそれとも他の適当な大きさの空母を取得すべきか迷っていたオーストラリアに売却提案が行われ、運用経費及び人的資源の面から運用は困難と判断されて却下された曰くつきのフネです。
またオーストラリアでは政権交代で労働党が政権に就き、カネ食い虫の空母は破棄という流れになってこの話も破談です。
そもそもオーストラリアとしては当時まだ敵対関係にあったインドネシアに対する軍事的圧力として、必要とあればかの国の首都ジャカルタを空爆可能なF-111戦闘爆撃機をアメリカから調達運用しているので、F-111が戦力化した1970年代半ばの時点で空母「メルボルン」の存在意義も相当に薄れていたのではないかと考えるところです。
「メルボルン」は対潜任務も兼ねているとはいっても、オーストラリア周辺の軍事的環境としてソ連潜水艦の脅威は固定翼対潜機を搭載した空母が必要なレベルなのかという話なのです。

閑話休題、インヴィンシブル級は結局三隻全てをイギリス海軍が保有することに落ち着き、1982年6月に二番艦「イラストリアス」が竣工、84年4月に「ハーミーズ」が退役して一時的に空母二隻体制になりますが、85年11月に三番艦「アークロイヤル」が竣工し、これでイギリス海軍の空母三隻体制が確立されました。

1986年末時点のイギリス海軍航空隊の戦力は前述の1981年末時点と大きな変化は無く、再編された部隊としてシーキングHAS装備の対潜ヘリコプター飛行隊810NASと、シーキングAEW装備の早期警戒ヘリコプター飛行隊849NASがあります。
849NASはフォークランド紛争において、イギリス機動部隊が早期警戒機の欠如からミサイル駆逐艦をレーダーピケット任務に充てざるを得ずに「シェフィールド」が沈没する損害を受けた反省から編成された部隊です。
機種改編した部隊は永らくワスプHAS.1を運用していた829NASで、この年にリンクスHAS.2に機種改編しています。
この後、89年8月にシーキングHAS装備の824NASが解散して1990年代を迎えることとなります。

« 1980年代後半のイギリス空軍(RAF) | トップページ | 1990年代前半のイギリス空軍(RAF) »

イギリス軍」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 1980年代後半のイギリス空軍(RAF) | トップページ | 1990年代前半のイギリス空軍(RAF) »

2020年11月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

カテゴリー