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2020年8月 2日 (日)

1960年代前半のイギリス海軍航空隊(FAA)

前回までの「1960年代のイギリス空軍(RAF)」に関連して、今回は1960年代前半のイギリス海軍航空隊(FAA)とその活躍の舞台であるイギリス海軍の空母の状況についての概要です。
これまでと同様に、ウィキペディア英語版と英語サイト「ウィングス-アビエーション」、雑誌「世界の傑作機」を情報ソースとして纏めてみました。

では最初に1961年末時点におけるFAAの800番台の第一線飛行隊の概要です。

戦闘飛行隊:7個:
デ・ハヴィラント・シーヴィクセンFAW.1飛行隊 x 4個(890. 892. 893. 899.の各飛行隊)
スーパーマリン・シミターF.1飛行隊 x 3個(800. 803. 807.の各飛行隊)

899NASは空母への展開を通常は行わない司令部飛行隊なので、実際に空母に展開するシーヴィクセン飛行隊は他の三個になります。
シーヴィクセンは1950年代末から実戦配備を開始した遷音速全天候迎撃戦闘機で、1960年末に第一線から退いたデ・ハヴィラント・シーヴェノムの任務を引き継ぐ他に、副次的任務として対地/対艦攻撃や戦術偵察任務も受け持ちます。
搭載する迎撃レーダーのAI.Mk18は高度6000m以上を飛行するキャンベラ爆撃機を28マイル(約52km)で探知できたそうですが、シーヴィクセンの先代の艦上迎撃戦闘機シーヴェノムのMk.21レーダーは海面上における最大探知距離が約40kmだったので、地上マッピング機能の実装化などレーダーの機能面での改善はあったにせよ、シーヴィクセンの目標探知能力はシーヴェノムと比べても驚くほどの向上は無かったのでは?と素人としては考えてしまうところです。
シーヴィクセンFAW.1の主力兵器は敵機の後方からのみロックオン可能な赤外線誘導のファイアストリークミサイルで、迎撃において重要なコリジョンコースの要撃には空対空ロケット弾しか攻撃手段がありません。
同時期に実用化されたアメリカ海軍のマクダネルF3Hデモン全天候戦闘機はコリジョンコースでの迎撃用に最初はビームライダー誘導方式のスパローⅠ、後にはF-4ファントムの主力兵器としても有名なセミアクティブレーダー誘導方式のスパローⅢを運用していましたから、この面でもシーヴィクセンの技術的遅れは目立ってしまうのです。
シーヴィクセンの後継機としては超音速機でかつV/STOL機でもあるという、今日見ても非常に野心的な戦闘機・P1154が空軍と海軍用に当時開発に入っていました。
海軍向けは複座で迎撃レーダーを装備するものでしたが、搭載力に限度のあるV/STOL機ではFAAの望む高性能のレーダーFCSや航続性能は実現困難です。
結局イギリス海軍は1963年にP1154を採用しないことを決定し、代替として当時のアメリカ海軍/海兵隊の最新鋭機であるマクダネルF-4ファントムの採用が1964年7月に政府承認を受けて、米海軍向け最新バージョンであるF-4Jの準同型機であるファントムFG.1として発注されることになるのです。

スーパーマリン・シミターはシーヴィクセンよりやや先行の1958年から実戦配備を開始したイギリス海軍の戦闘機としては最初の遷音速機です。
その任務は1960年末に第一線を退いたホーカー・シーホークのそれを引き継ぐ対地/対艦攻撃と昼間空対空戦闘で、1962年から配備が始まったイギリス最初の戦術核爆弾「レッドベアード」(核出力最大25キロトン)の運用能力も追加されていました。
ウィキペディアを見ると、シミターの空対空兵装としてアメリカ製の赤外線誘導式空対空ミサイル・サイドワインダーが挙げられていますけれど、シミターがいつ頃からサイドワインダーの運用を開始したのか、この辺が今後出る(のかな?)「世界の傑作機」でぜひ解明してほしいところです。
1961年時点でイギリス空軍の戦闘機はサイドワインダーを使っておらず、導入されるのは1960年代末のファントムFGR.2の配備開始に伴ってですし、海軍にしても1970年代初めに母艦運用を開始したファントムFG.1においてでした。
従ってシミターこそは、サイドワインダーミサイルを最初に運用したイギリス戦闘機ということになるので、その配備時期は私のようなイギリスマニアにとって大変に重要な話なのですよ。

この時期のイギリス海軍航空隊には純然たる攻撃機は存在せず、シミターが攻撃機的運用を行い、シーヴィクセンがそれを補完している状態でした。
もっともこのような体制は戦後のイギリス海軍航空隊の常態に近い形で、シーヴィクセンとシミター以前の戦闘機コンビ、シーヴェノムとシーホークが攻撃機的運用を行っていたのでした。
ファイアブランド、ワイバーンと戦後の雷撃機や攻撃機がいずれも実用性や性能に難があったのが要因のひとつと言えますが、イギリス海軍の空母飛行隊に斜陽の時代が訪れつつあるこの時期に、ようやくFAAのお眼鏡に叶う高性能の攻撃機が完成をみるのです。
それがブラックバーン・バッカニア。
最初から超低空侵攻を主戦術として設計開発されたおそらく世界初の攻撃機で、当初の開発目的は増大するソ連水上艦隊に対して核攻撃を敢行することでした。
バッカニアを装備する最初の実戦飛行隊、801NASは1962年7月に再編されて、1963年8月には空母「ヴィクトリアス」に展開して最初の海外展開を実施しています。
1964年3月にはバッカニアの二つ目の実戦飛行隊800NASが再編されて、この年の年末に大改装を終えて現役に復帰した空母「イーグル」に乗艦して海外展開を行っています。
ただこの二つの実戦飛行隊に配備されたバッカニアは最初の量産型のS.1で、ターボジェットエンジン搭載型です。
低空における燃費のよくないターボジェットエンジン搭載で低空侵攻任務を行うのでは、せっかくのバッカニアの機体設計の価値を半減させてしまいますし、エンジン自体も当時から気温の高い地域での推力低下が欠点として指摘されていたのです。
バッカニアの機体のポテンシャルを真に発揮させるには、また小柄なイギリス海軍の空母での運用をより確かなものにするためには静止推力が高く低空侵攻時の燃費にも優れたターボファンエンジンへの換装が必要で、それは実際に実行されていくのです。

早期警戒飛行隊 x 1個:フェアリー・ガネット早期警戒飛行隊(849飛行隊)
艦上対潜哨戒機として、1956年末時点では五個飛行隊に配備されていたターボプロップ機のガネットですが、1960年までにイギリス海軍初の対潜ヘリコプターのウェストランド・ホワールウィンドにその任を譲り、1961年に退役したアメリカからの供与品のスカイレイダーAEW機の後任として早期警戒機に改造されて新たな任務に就いています。
とはいえ、早期警戒機にとって肝心要のレーダーはスカイレイダーからの移植で済ませていて、なんとも安直な施策だなぁと思ってしまうのです。
この時点ではイギリス海軍の空母運用はずっと続けるつもりだったのでしょうし、それなら1970年代を見据えた新たなレーダー開発という選択肢は無かったものかと。
まぁやはり、財政的にそれは厳しかったのかもしれませんが。

対潜ヘリコプター飛行隊 x 5個:
ウェストランド・ウェセックスHAS.1飛行隊 x 2個(815. 819の各飛行隊)
ウェストランド・ホワールウィンドHAS.7飛行隊 x 3個(814. 824. 825. の各飛行隊)

フェアリー・ガネットに代わって、1958年から配備されたイギリス海軍初の対潜ヘリコプターがウェストランド・ホワールウィンド。
と言いましてもイギリス国産機ではなく、アメリカ製シコルスキーS-55のライセンス生産機です。
エンジンは未だレシプロエンジンで、単独での対潜捜索攻撃能力は無いという過渡期の産物です。
センサー搭載のハンターと魚雷や爆雷を搭載するキラーのコンビで任務に当たっていました。
二機一組でないと任務達成が不可能で、エンジンはガソリンを燃料とするピストンエンジンとあっては、この時点での母艦における対潜任務を全面的に担わせるのは少々酷なのでは?と思うところです。
1960年代初めのアメリカ海軍の対潜空母は、固定翼機のグラマンS2Fトラッカーを主力対潜機として、対潜ヘリコプターはそれを補完する二義的存在でした。
イギリス海軍も本来はガネットとホワールウィンドの二本立てで行きたいところなのでしょうけれど、肝心な母艦の大きさがアメリカ海軍とでは違いすぎますし攻撃空母と対潜空母の双方を保有する余裕もありません。
それにそもそも当時のイギリス空母の主要な任務は対ソ連ではなく、中東や東南アジアのイギリスの植民地や独立した旧植民地、保護国に対する軍事的プレゼンスにあったので、空母機の対潜任務については敵性発展途上国の保有する、もしくは近い将来に保有するであろう第二次大戦型の潜水艦を叩ければそれでよしと割り切っていたのかもしれません。

ウェストランド・ウェセックスはこれもアメリカ製シコルスキーS-58のライセンス生産機で、この年から部隊配備が始まった最新鋭ヘリコプターです。
レシプロエンジン搭載のオリジナル版S-58とは違っていち早くターボシャフトエンジンを採用しているのがウェセックスの一大特徴ですが、当機もまだ単独で捜索攻撃を実施できるレベルには至っておらず、ハンターとキラーの二機一組での運用になります。
ウェセックスHAS.1は部隊配備はされたものの、この時点では対潜用としては問題があったようでその任務は短期間のうちに対潜から捜索救難に変更されています。
また、対潜ヘリコプター飛行隊は1964年3月に829NASがウェストランド・ワスプHAS.1装備で再編されています。
ワスプはセンサーを持たず、対潜魚雷投射専用の小型ヘリコプターで、空母ではなく主にフリゲートへ展開しています。

輸送ヘリコプター飛行隊 x 推定1個:
ウェストランド・ホワールウィンドHAS.7飛行隊 x 1個(849飛行隊)

コマンドー母艦に展開してイギリス海兵隊(コマンドー)の輸送任務に就く輸送ヘリコプター飛行隊は、1961年末時点ではまだ849NASのみのようです。

これら航空隊の活躍の舞台となるイギリス海軍航空母艦の1961年末時点の状況は下記の通りです。

現役艦(稼動艦):3隻
「アークロイヤル」「セントー」「ヴィクトリアス」

「アークロイヤル」は同型艦の「イーグル」と共に、当時のイギリス海軍最大の空母ですが、起工から完成までに長期間を要したためにその間に船体各部の劣化を生じていて色々とトラブルの多い母艦だったそうです。
「ヴィクトリアス」は第二次大戦中のイギリス海軍主力艦隊空母イラストリアスグループの最後の生き残りで、1958年に足掛け9年に及ぶ大改装を終えて現役復帰してからこの時点で三年が経過しています。
「セントー」は1950年代中盤に三隻が完成したセントー級艦隊軽空母のネームシップで、同型三隻中この艦のみがカタパルトの油圧型から蒸気型への換装、アレスティングワイヤの更新などの改装を受けて、艦隊任務用空母として現役に留まっていました。
この改造なくしては遷音速機のシーヴィクセン全天候迎撃戦闘機やシミター戦闘攻撃機の運用は不可能で、改造を実施しなかった他の二隻、「アルビオン」と「ブルワーク」は艦隊空母としての運用を諦めてコマンドー母艦に改造されています。
しかし「セントー」はシミター戦闘攻撃機の後継として配備されたブラックバーン・バッカニアS.1攻撃機の運用は不可とされた為、退役時の搭載固定翼機はシーヴィクセン12機とガネットAEW4機という戦力的価値に乏しい存在になってしまいます。
結局、「セントー」は1965年9月に退役、コマンドー母艦への改造も検討されましたがコストの問題で見送られて1972年にスクラップとして売却されました。

現役艦(長期改装及びドック入り):2隻
「イーグル」「ハーミーズ」

「イーグル」は「アークロイヤル」の同型艦で、この時期は長期改装中で現役復帰は1964年になります。
1959年に就役した中型空母のハーミーズはこの時期は地中海展開から帰投したばかりで、次の海外展開に備えて修理と休養に入っています。

現役艦(コマンドー母艦):1隻
「ブルワーク」

コマンドー母艦としては「ブルワーク」の同型艦「アルビオン」が艦隊軽空母から転換改装中で、翌年に改装を終了して現役復帰しています。

これら空母のうち、早期退役の「セントー」は別にしても中型の「ヴィクトリアス」と「ハーミーズ」ですら、その船体規模や発展余裕の少なさから、近い将来の新型艦載機の運用には問題があることがこの当時から認識されていました。
「ヴィクトリアス」と「ハーミーズ」は「セントー」とは異なって新型攻撃機のバッカニアの運用が可能でしたけれど、それ以上のレベルの機体、つまりF-4ファントムのようなヘビー級の超音速戦闘機運用はかなりの無理があったのです。
実際、後に「ハーミーズ」でのファントム運用が検討された際には、発艦時に「イーグル」や「アークロイヤル」での運用よりも燃料を半分に減らす必要があったそうです。
その為、さしあたりこの2隻の代替として大型の新型空母建造が求められることになり、「CVA-01」計画として具体化していくことになります。

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