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2020年7月12日 (日)

1960年代前半のイギリス空軍(RAF)その二(1960年代前半のRAF特記事項)

前回の「1960年代前半のイギリス空軍その1」に引き続いて、今回は「1960年代前半のイギリス空軍(RAF)その二」です。
1962年から65年にかけてのイギリス空軍(RAF)に関する特記事項を備忘録的に挙げておきます。

1962年:
この年にイギリス初の実用水素爆弾「イエローサン Mk.2」と初の戦術核爆弾「レッドベアード」の配備が開始され、9月には「イエローサン Mk.2」と同じピット「レッドスノー」を搭載した空対地核ミサイル「ブルースティール」(最大射程240km、核出力1メガトン)が、緊急時限定使用限定でヴァルカンB.2爆撃機装備のNo617飛行隊への配備が始まります。
その一方でイギリス初の実用原子爆弾「ブルーダニューブ」が退役。
5月には「プロジェクトエミリー」に基づく米国製中距離弾道ミサイル「ソー」のイギリス本土への配備(計60発)を翌年末までに終了することが正式決定されました(実際には翌年8月に運用終了)。
核弾頭のみアメリカの管理で、他は基地の提供から攻撃目標の選定やミサイルの発射指揮までRAFの管理下で配備が行われてきた「ソー」ミサイルはイギリスへの全面移管も提案されたそうですけれど、コストの問題から却下されてしまったとの事です。
また「プロジェクトE」に基づいて、ボマーコマンド用にアメリカから提供されていた核爆弾も「イエローサン Mk.2」と交代する形で撤去されます。
注:「プロジェクトエミリー」と「プロジェクトE」に関しましては「1950年代後半のイギリス空軍(RAF)その3」を参照ください。
イギリスの核兵器史において、大型で低威力の「ブルーダニューブ」に代表される幼年期から、アメリカの技術由来とは言え国産開発の熱核弾頭を搭載した「イエローサン Mk.2」と「ブルースティール」の配備、アメリカ製核兵器のイギリス本土からの撤退と一応の自立化が達成された記念すべき年、それが1962年だったのです。
しかしこの年の暮れに、アメリカから衝撃の発表。
イギリスが開発を断念した中距離弾道ミサイル「ブルーストリーク」の代替として採用を正式決定していた、空中発射式弾道ミサイル「スカイボルト」計画の中止発表です。
失敗続きのテストに業を煮やした時のマクナマラ国防長官によって葬り去られたこのミサイル、アメリカでは大陸間弾道弾のアトラスが一応の安定した配備段階に入って後続のタイタンⅠもこの年に配備を開始、さらなる改良型のタイタンⅡの実用化も間近、海軍の潜水艦発射弾道ミサイル「ポラリス」と空軍の空中発射型空対地核ミサイル「ハウンドドッグ」(最大射程約1,100km、核出力最大1.45メガトン)が実戦配備を開始。
これで第一撃用のアトラスとタイタン、報復用のポラリス、それらを補完するハウンドドッグの体制が整ったことで、ポラリスやハウンドドッグと競合し実用化のメドも立たないスカイボルトなど不要という判断です。
この発表に驚愕したのが他ならぬイギリス政府。
スカイボルト開発中止は寝耳に水だったようで、時の首相マクミラン氏がワシントンにすっ飛んでいって説明を求める事態になりました。
アメリカ側はスカイボルト計画をイギリスに移管してイギリス独自で開発を続行するか、あるいは「ハウンドドッグ」ミサイルを購入するかの二つの案をイギリス側に提案しますが、イギリス側はその両方を拒否。
スカイボルト計画は実用化まであとカネがどれほどかかるのかどれほどの時間を要するのか見当もつかない状態ですし、ハウンドドッグは当時RAFで配備が開始されたばかりの「ブルースティール」の代わりにはなっても、イギリスの国家の命運がかかっている戦略核抑止任務を担える存在ではありません。
弾道飛行のもたらすズバ抜けた高速による迎撃回避能力と確実な打撃力において、空対地ミサイルは弾道ミサイルの代替にはなり得ないのです。
結局、アメリカ側が譲歩をする形で最新鋭のポラリスミサイルをイギリスに売却し、イギリスはポラリスを搭載する戦略ミサイル原潜を建造して核抑止力とする事が決定。
アメリカはイギリスに売却するポラリスを「NATOの共同防衛用を原則として、イギリスの国家主権が絶対的な危機に陥った時にのみ独自の判断で使用できる」とその使用に制限を加えたかったのですが、それもなし崩しにされて現在のトライデントミサイルまで続く体制「イギリス独自の核戦力」になってしまったのだとか。
ともあれポラリス搭載の原潜建造が決まったことで、RAFの戦略核任務はポラリス運用が軌道に乗る1970年までと明確なゴールが決まってしまったのです。

1963年:
この年の2月に、ブルースティールミサイルはヴァルカン爆撃機装備のNo617飛行隊で完全な実働体制に入ります。
しかし高高度からの発射を前提として設計されたブルースティールは配備開始早々に、1960年に起きたアメリカのスパイ偵察機U-2が高高度でソ連の領空を侵犯飛行中に地対空ミサイルによって撃墜された事件に端を発した「高高度侵入の生存性への疑念」から、超低空での発射の実用性を問われる事態になっているのでした。

1964年:
この年の春にはコリジョンコースでの迎撃が可能な新型空対空ミサイル「レッドトップ」を運用可能なAI.22BレーダーFCSを搭載するライトニングF.3戦闘機の部隊配備が開始されています。
超音速飛行する機体から放射される空力摩擦による赤外線に対応するシーカーを備えたレッドトップは、この時期の米ソ両国ですら実用化されていなかったタイプの空対空ミサイルですが、実際にはイギリス本土周辺に飛来するソ連機は皆大型の亜音速機で、加えてイギリス上空は曇天が多くてせっかくの赤外線シーカーも宝の持ち腐れでした。
実戦でも戦闘機が空戦中に超音速で機動する機会はこく少ない事はベトナム戦争や中東戦争で判明しておりましたので、レッドトップが実戦使用されてもその能力を生かす機会はなかなか生じなかったのではと思われます。
またこの年には地対空ミサイル「ブラッドハウンド Mk.2」が運用を開始しています。
パルスレーダーによる誘導方式ゆえに低高度目標迎撃能力に欠けていたブラッドハウンドMk.1に対して、Mk.2はパルスドップラー誘導方式を採用して低高度迎撃能力を獲得し、超低空から高高度までの広い迎撃範囲を持つ高性能の地対空ミサイルに進化しました。
加えて最大射程もMk.1の約50kmから約190kmへ大幅に延伸しています。
弾頭重量もMk.1の約90kgから倍増の約180kgになっていて、この打撃力ならば大型の敵爆撃機も一発で完全に仕留めることが出来ましょう。
ライトニングF.3戦闘機とブラッドハウンドMk.2地対空ミサイルの組み合わせによって、イギリス本土の防空能力は着実な改善をみたのでした。
しかしこの年の10月にイギリスの総選挙で労働党政権が誕生。
RAF期待の新型機開発プロジェクトが財政難を理由に中止に追い込まれることになるのです。

1965年:
この年の2月、前述の新型機開発プロジェクト「P.1154」と「HS681」の中止が発表されました。
「P.1154」は極めて野心的な超音速V/STOL戦闘攻撃機計画で、計画開始当初は空軍の戦術戦闘機と海軍の迎撃戦闘機の二本立てでした。
しかし海軍はこの機の搭載力では充分な能力のレーダーFCSが搭載できないなどの理由で1963年に計画から離脱して、アメリカ製のファントムを採用することに決定し、以降は空軍単独の戦術戦闘機計画として進められていました。
「HS681」はブラックバーン・ビバリーやアームストロングホイットワース・アーゴシーの後継機を意図して開発していた高いSTOL性能を持つ戦術輸送機です。
しかしこの両者はこの時点で初飛行すら済ませておらず、実用化まではまだ相当の時間とコストがかかると予想されることから開発を断念し、これによって生み出される余力を戦術核攻撃偵察機のTSR2計画に注ぎ込もうというものでした。
そしてP.1154の代替としてイギリス空軍向けのファントムFGR.2を、HS681の代替としてアメリカ製のC-130をそれぞれ導入することが決定されます。
RAFのファントム導入はこの年の7月に発表され、11月には海軍が採用したファントムFG.1と同じスペイ・ターボファンエンジンと搭載した準同型とすることに決定されます。
ファントムFG.1は米海軍向けのF-4Jと並行して開発されたタイプで、戦闘機としては世界初のパルスドップラーレーダーを採用して低高度迎撃能力に優れた機体ですけれど、対地攻撃能力は米海軍のF-4Jと同じく月並みなものでした。
一方、当時米空軍向けに開発されていたF-4Dは、空対空レーダーは従来のパルス式で低高度迎撃能力が欠如している一方で対地攻撃能力については優れたセンサーシステムを備えていて現場でのアドリブな地上攻撃が可能です。
対地攻撃を一義的任務とする空軍向けとしては明らかにこちらの方が能力は上です。
またファントムFG.1で採用されたターボファンエンジンのスペイはリヒート(アフターバーナーのイギリス流呼称)使用時の推力が高く、米海軍の空母よりも一回り以上小さなイギリス海軍の空母で運用するには実に有効ですけれど、加速性能や高高度での最大速度はアメリカ製ファントム搭載のJ79ターボジェットエンジンに劣るとされていました。
スペイのもうひとつの特徴として燃費が良く航続性能が高いのを考慮しても、RAFとしてはF-4Dをそのまま採用したかったのだろうと素人が見ても納得できる話なのです。
しかしアメリカ製をそのまま導入することは貴重な外貨のドルを大量に流出させる事に他ならず、国内航空産業の仕事確保の観点からもRAFの抜け駆けは許される話ではなく、対地攻撃能力に不足を感じていても海軍向けFG.1ベースの機体採用を行わざるを得なかったのです。
ファントムFGR.2導入後の5年ほどはRAFG(ドイツ駐留イギリス空軍)の攻撃偵察機として運用していたRAFですが、フランスと共同開発した対地攻撃機ジャガーが実用化されるとすぐに置き換えられて、ライトニング戦闘機の後継として迎撃任務に転換されたのはその辺の事情があったのでしょうね。

意欲的な二つの航空機開発計画を中止してTSR2計画は続行というその舌の根も乾かぬ4月、そのTSR2計画も中止されてしまいます。
超低空高速侵入能力を持ちつつ高空でマッハ2を発揮し、STOL性を併せ持つこの機体はキャンベラ中型爆撃機の後継として大いに期待された、戦術核攻撃能力と戦術偵察能力をその任務とした当時世界最高峰の攻撃機となるはずでした。
TSR2の試作機はこの前年9月に初飛行して、この年の2月には初の超音速飛行にも成功しておりましたけれど、機体そのものがまだ未成熟な上に超低空高速侵入を担保する電子装置は大半がまだ未完成で、実用化までにはまだまだ多額のコストと時間を必要とする状況だったのです。
また右肩上がりの開発コストから要求性能の切り下げ(高空での最大速度をマッハ1.7に下げるなど)を行わざるを得ず、価格と性能が釣り合わなくなってきてRAFのこの機に対する期待も次第にしぼんでいったのです。
1964年にはとうとうアメリカ製のF-111戦闘爆撃機と比較検討の俎上に載せられるまでにその評価は落ち、総選挙前はTSR2計画続行を表明していた労働党も政権の座に就くとその態度を一変、そして開発中止が宣せられてしまったのでした。
超低空高速侵入と高空での高速性能を両立させることは、F-111で使われたコンピュータ制御の可変翼でも採用しないことには実現困難なのは素人にも予想の付くところで、イギリスがTSR2を実現させるには低空侵攻最優先という当時の世界的トレンドから考えて、超音速性能は諦める他無かったのではと思います。
しかしそうなると、超音速性能を最初から切り捨てて超低空高速性能に特化して成功した海軍のバッカニア艦上攻撃機と競合してしまいます。
結局、TSR2の代替は戦略核任務から降りたヴァルカン爆撃機とバッカニアの採用(両者共に超音速性能は備えていません)でなんとかなってしまったので、TSR2の当初の極めて高度な要求性能そのものが不要ではなかったか?と疑問を持たずにはおられないところなのです。
ただ、TSR2の開発が始まった1950年代末の時点では、その10年後に当時最新鋭のヴァルカン爆撃機が戦略核任務から外れて戦術攻撃任務に転用されるなどと予想する人はいなかったでしょうからこの種の機体の必要性そのものはあったので、あれこれ欲張らずに堅実に計画開発していたらなんとか実用化にこぎつけられたのではないかと残念なところです。

この年の4月末には、戦術核攻撃と空中給油、長距離偵察用に転用されていたイギリス初のジェット戦略爆撃機・ヴィッカース・ヴァリアントが退役。
機体への過重なストレスから発生した主翼のクラックを修理するコストが高額な為に継続使用を断念し、空中給油については低空侵攻能力が充分ではなくブルースティール運用能力を持たないことから爆撃機としては早期退役に追い込まれたハンドレページ・ヴィクターB.1/B.1Aが代替として改造され、長距離偵察についてはヴィクターB.2を改造転用することでヴァリアント退役の穴埋めをしています。

在独イギリス空軍(RAFG)に二個飛行隊が配備されている迎撃戦闘機はこれまで遷音速機のグロスター・ジャベリンでしたけれど、この年にはマッハ2級の超音速戦闘機ライトニングに機種更新しています。
NATO共同防衛任務の第二戦術空軍の中核戦力として、東西冷戦の最前線の空の守りの一翼を担うRAFGの迎撃戦闘機も1960年半ばでようやく超音速時代に突入したのでした。

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