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2011年1月26日 (水)

1970年の英国海軍

前回エントリー「1960年の英国海軍」の続きで、今回は1970年時点の英海軍勢力を振り返ってみます。

まず1960~70年の英国海軍関係主要トピックスは下記の如し。

1960年
英国海軍最後の戦艦「ヴァンガード」解体。
1961年
中型空母「アルビオン」のコマンド空母への改装開始(翌年完成)。
英国海軍最後の巡洋艦「ブレイク」就役。
西側初のガスタービン推進水上戦闘艦である81型フリゲイト一番艦
「アシャンティ」就役。
1962年
英国海軍初のミサイル駆逐艦(シー・スラグSAM搭載)カウンティ級一番艦
「デヴォンシャー」就役。
1963年
英国海軍最初の原潜「ドレッドノート」就役。
米国からのポラリスSLBM導入決定に伴い、英国海軍最初の戦略ミサイル原潜
「レゾリューション」級建造決定。
戦後計画の英国海軍水上戦闘艦最高傑作と名高い対潜フリゲイト「リアンダー」
級一番艦「リアンダー」就役。
1964年
艦戦シーヴィクセン後継機としてファントムFG.1の導入決定。
空母「イーグル」、1959年以来の大改装を終えて艦隊復帰。
1965年
中型空母「セントー」退役。
ドック型揚陸艦「フィアレス」級一番艦「フィアレス」就役。
対空巡洋艦「ブレイク」の対潜ヘリ巡洋艦への改装開始(69年完成)。
世界初のターボファンエンジン搭載戦闘用航空機・バッカニアS2の実戦部隊
発足、翌年には空母「ヴィクトリアス」に搭載されて実運用開始。
1966年
英労働党政権、スエズ以東からの軍事力撤退を決定。それに伴い通常型空母
全廃も決定。新空母CVA-01計画中止。
1967年
地中海艦隊廃止。
英国海軍初の戦略ミサイル原潜「レゾリューション」就役。
空母「アーク・ロイヤル」、ファントム運用の為の最後の改装を開始
(70年完成)。
1968年
最後の戦前計画型空母「ヴィクトリアス」退役。
対空巡洋艦「タイガー」の対潜ヘリ巡洋艦への改装開始(72年完成)。
戦略ミサイル原潜による戦略パトロール開始。
1970年
改装終了した空母「アーク・ロイヤル」でファントムFG.1の運用開始。

待望の高性能艦攻バッカニアの運用を開始し、超音速艦戦ファントムの導入を決定し、期待の新型空母CVA-01型計画が進んでいたその僅か1~2年後に空母全廃が決定されようとは、空軍が計画する超音速V/STOL戦闘機導入の執拗な圧力を跳ね除けて、愛しの恋人ファントムをようやくゲットしたばかりの海軍にとってまさに青天の霹靂。
その代わりに戦略核任務を空軍の戦略爆撃機から戦略ミサイル原潜へシフトさせたまではよかったものの、その運用にはとてつもないコストがかかり海軍
の通常戦備をますます圧迫する事になります。
その他水上戦闘艦艇では両用戦の確実性を担保するドック型揚陸艦2隻が就役し、また戦時計画型の駆逐艦やフリゲイトが急速に姿を消す一方で、新世代の旗手として英国国産のシースラグSAMを搭載したカウンティ級ミサイル駆逐艦とホイットビィ級以来の戦後型対潜フリゲイトの完成形であるリア
ンダー級が艦隊に加わります。
これにより戦力の質的な向上は相応に図られておりますけれど、量的減勢はそれを上回る規模で情け容赦なく実行されます・・・。

そんな1970年時点での英国海軍主要戦力は下記の通り。
米ソ両国の概数も比較の為に記述しております。
ほんの30年前は対等であった米海軍には大差をつけられ、かつては全く考慮の外であったソ連海軍に対しても艦隊航空兵力以外は圧倒され、海軍力は
世界第三位に転落。

戦略ミサイル原潜:4隻:レゾリューション級4隻。
潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)定数64発。

1970年末時点の米ソが保有する戦略ミサイル原潜は下記の如し。
米国:41隻:ラファイエット級31隻、イーサン・アレン級5隻、ジョージ・ワシントン級5隻。SLBM定数656発。
ソ連:25隻:ヤンキー級17隻、ホテル級7隻。他にホテル級1隻が大改装中。
SLBM定数293発、但し他に通常動力型戦略ミサイル潜ゴルフ級22隻とズールー改型6隻を保有(SLBM定数78発?)。

攻撃型原潜:4隻:チャーチル級1隻、ヴァリアント級2隻、ドレッドノート。

1970年末時点での米ソ攻撃型及び巡航ミサイル原潜は下記の如し。
米国:47隻:スタージョン級20隻、ナーワル、タリビー、パーミット級13隻、ハリバット、スキップジャック級5隻、スケート級4隻、シーウルフ、ノーチラス。
スタージョン級、ナーワル、タリビー、パーミット級は対潜核兵器サブロックの運用が可能。
ソ連:61隻
攻撃型18隻:ヴィクターⅠ級7隻、ノヴェンバー級11隻。
巡航ミサイル型:43隻:チャーリーⅠ級7隻、パパ級1隻、エコーⅡ級29隻、エコーⅠ型(659型)6隻。

戦術原潜への核装備が常態化している米ソに比べ、英国は依然として通常装備のみに留まっておりました。

ディーゼル潜:27隻:戦後計画艦21隻(オベロン級13隻、ポーパス級8隻)戦時計画艦6隻(A級6隻)

艦隊空母:3隻:ハーミーズ、アーク・ロイヤル、イーグル。

前述のようにアーク・ロイヤルは大改装を終えて現役復帰、早速ファントムFG.1を搭載して地中海クルーズに出発しています。
その一方で最後の中型空母ハーミーズは翌年からコマンド空母への改装工事に入り、イーグルはファントムの本格運用能力を与えられぬまま2年
後に退役する運命です。
またウィキペディア英語版によると、1960年代後半にオーストラリア海軍が空母「メルボルン」(満載排水量2万t)の後継艦としてハーミーズ取得を検討し、A-4攻撃機とS-2対潜機の着艦訓練を行なったが、コスト高に付き見送ったそうです。
「世界の傑作機A-4スカイホーク」によると、オーストラリア海軍にA-4Gが引き渡されたのは67年7~12月との事なので、ハーミーズで着艦訓練を行なったのは67年末から68年初めあたりでしょうか?
しかしメルボルンは67年末から米国で近代化改装を実施しているので、時期的に少々合点が行きません。
ハーミーズ取得見送りを受けての改装なら納得なのですけれど、それが恐らくまだ正式決定を見ないうちの改装着手というのは?
しかも改装場所はオーストラリア国内ではなく米国なので、相当以前に決定された事だと思うのですが・・・。
オーストラリア海軍には当時、元空母の輸送艦シドニーが在役していたのでそれの代艦扱いでハーミーズを取得し、近代化改修後のメルボルンと共にジェット母艦2隻体制に移行という話ではないようですし・・・。
それともA-4とS-2のハーミーズでの訓練は、ハーミーズ取得とは直接関係無い話だったのでしょうか?
メルボルンの現役復帰は1969年初頭で、それまではせっかくのA-4もS-2も母艦上での訓練を実施出来ませんから、極東艦隊所属のハーミーズで訓練を行なわせてもらっていたという推察も出来ます。
当時米海軍空母はベトナムツアーにかかりきりで、同盟国の艦載機訓練を請け負うだけの余裕は無かったでしょうし、消去法で行けばそれが可能なのはハーミーズしかありません。

さて1970年末時点での米海軍現役空母は下記の如し。
攻撃空母:15隻:
ファントム運用艦12隻:エンタープライズ、キティホーク級4隻、フォレスタル級4隻、ミッドウェイ級3隻。
ファントム運用不可艦3隻:エセックス級3隻(オリスカニー、ボノム・リシャール、ハンコック)。
対潜空母:4隻:エセックス級4隻(イントレピッド、ワスプ、タイコンデロガ、シャングリラ)。
最早英国とは質量共に隔絶した強力無比の海上航空戦力です。

コマンド空母:2隻:アルビオン、ブルワーク。

ドック型揚陸艦:2隻:フィアレス、イントレピッド。

巡洋艦:2隻:対潜ヘリ巡ブレイク、対空巡洋艦ライオン。タイガーは
対潜ヘリ巡への改装中。

1970年末時点の米ソ巡洋艦/ミサイルフリゲイトは下記の如し。
米国:30隻:
戦後計画艦:原子力ミサイル巡洋艦/フリゲイト3隻(ロング・ビーチ、ベインブリッジ、トラクスタン)、ミサイルフリゲイト(後にミサイル巡洋艦に類別変更)18隻(ベルナップ級9隻、レイヒ級9隻)。
戦時計画艦:ミサイル巡洋艦7隻(アルバニー級3隻、ガルベストン級2隻、プロビデンス級2隻)、重巡洋艦2隻(デ・モイン級1隻、ボルティモア級1隻)。
ソ連:22隻:
対潜ヘリ巡洋艦モスクワ級2隻。対潜ミサイル巡洋艦6隻:クレスタⅡ級2隻、クレスタⅠ級4隻。対艦ミサイル巡洋艦キンダ級4隻。
軽巡洋艦10隻(スヴェルドロフ級7隻、チャパエフ級2隻、キーロフ級1隻)。

大型対潜ヘリを搭載するブレイクは、イタリア海軍の対潜ヘリ巡洋艦ヴィットリオ・ヴェネトと並ぶユニークな存在でしたが、最初からヘリ運用を主眼に
して設計されまた艦隊防空用にテリアSAMを装備するヴェネトに比べると、やはり大きさの割に無駄の多い艦のように思えます。
元々の出自が伝統的な砲戦用軽巡なので仕方が無い事ではありますが・・・。

駆逐艦:10隻?:ミサイル駆逐艦カウンティ級8隻、戦時計画型駆逐艦後期バトル級2隻?

1970年末時点での米海軍保有ミサイル駆逐艦/フリゲイトは下記の如し。
テリアSAM搭載艦10隻:クーンツ級(DLG、後にミサイル駆逐艦に類別変更)。
ターターSAM搭載艦29隻:チャールズ・F・アダムス級23隻、ディケイター級4隻、ミッチャー級2隻。
SAMシステムの完成度は英海軍のシースラグよりも米海軍のテリアやターターが明らかに上なので、その艦隊防空力は隻数以上の差があります。

フリゲイト:65隻前後:リアンダー級23隻(対潜ヘリ搭載)、ロスシー級9隻(近代化改装により対潜ヘリ運用能力逐次追加中)、トライバル級7隻(対潜ヘリ搭載)、ソールズベリ級4隻、レパード級4隻、ブラックウッド級9~11隻、ホイットビィ級6隻、Type15型少なくとも1隻。

小型水上戦闘艦への有人ヘリ搭載に関しては、英国海軍は世界最先進の水準にありました。
米海軍の護衛艦(後にフリゲイトに類別)やFRAM駆逐艦は無人対潜ヘリDASH運用を前提にしていて、しかもそのDASHは69年に計画中止。
その代替としてLAMPS計画がスタートして駆逐艦やフリゲイトへの多用途ヘリ搭載がようやく開始される事になります。
策士策に溺れた格好のDASHに比べ、英国海軍のワスプ・ヘリコプターを使用するMATCHシステムは堅実。
世界をリードする数々の革新的な技術や装備を生み出す一方で、慎重に過ぎる姿勢も併せ持つ英国海軍ですが、その慎重さと技術の身の丈が合っていたからこその名を捨てて実を取った結果と言えましょうか。

一方、この時点の我が海自の戦力は下記の如し。
護衛艦:38隻:
ターターSAM・アスロック搭載艦:DDGあまつかぜ。
アスロック・DASH搭載艦:DDAたかつき型4隻。
アスロック搭載艦:DDKやまぐも型3隻。
DASH搭載艦:DDKみねぐも型3隻。
いずれも未搭載:国産DD14隻(あきづき型2隻、むらさめ型3隻、あやなみ型7隻、はるかぜ型2隻)。
国産DE7隻(いすず型4隻、いかづち型2隻、あけぼの)、
貸与DD2隻(ありあけ型)、貸与DD/PF3隻(あさひ型2隻、くす型1隻)、旧帝国海軍艦1隻(わかば)。
ようやく一線級の対潜装備が米国から提供されて、10年前の古色蒼然とした姿から近代海軍へ脱皮しつつあります。
しかし対空ミサイル艦はあまつかぜ唯一隻、それに次ぐ対空火力のMk42五インチ速射砲を装備するのはたかつき型のみ。
残りの艦は亜音速機の攻撃に対してさえ自衛戦闘すらおぼつかない有様で、これはこの10年後においても抜本的な解決をみずなのでした。
洋上航空兵力を抜きにしても、まだまだ英海軍水上戦闘艦艇との差は大きく、その英国海軍すら遥かに凌ぐ米海軍のそれは海自護衛艦とどれ程の差が
あった事か・・・。

潜水艦:10隻:
あさしお型4隻、おおしお、なつしお型2隻、はやしお型2隻、おやしお。

洋上哨戒が可能な大きさと装備を持つあさしお型の就役で、ようやく潜水艦の実戦的運用に目鼻が付き始めた状況でした。

ここまで書いたら200行超え! 本日も紙面が尽きてしまいました・・・。
1980年以降はまた次回に。

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