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2016年7月23日 (土)

英国海軍戦略原潜更新決定、しかしその前途は?

備忘録的に・・・

英議会下院(定数650)は18日夜、同国唯一の核戦力である潜水艦発射型弾道ミサイル「トライデント」を搭載する原子力潜水艦4隻の更新について採決し、賛成472、反対117で承認したそうです。→ソースはttp://www.yomiuri.co.jp/world/20160719-OYT1T50074.html?from=ytop_main1

2011年1月に当ブログで「破断界を越えつつあるか英国海軍?」という記事を書いた段階では、2016年までバンガード級戦略原潜の更新判断を先送りということになっていましたが、今回、正式に更新に対してGOサインが出たわけです。
イギリスの与党保守党は勿論、野党第一党の労働党も6割が賛成に回ったそうですが、あちらでは党議拘束は無いんですね。
我が国ですと、こういう安保マターに関しては野党はこぞって絶対反対!
民進党の保守系議員が実に言いにくそうに、「実は我々は賛成にやぶさかではないがムニャムニャ」と苦しい言い訳をするのがよくあるパターンですからね。
国家の生存に関わる最重要案件に対しては、野党も真剣に考えて議員ひとりひとりの判断に委ねる、この辺は流石イギリス、近代議会制民主主義の始祖に相応しいやり方ですな。

GDPは世界上位5位から外れ、かつて隆盛を誇った製造業は沈み、代わって国の新たなメシの種に据えた金融も、地に足が着いていない所詮は浮き草。
そんなイギリスにとって、世界の大国である象徴的な証が国連安保理常任理事国の椅子と戦略核戦力を保有していること。
このどちらも、イギリスという国家が存続する限り、自発的にはけして手放すことはないのは極東の島国の田舎の小市民でさえよく理解認識できるところです。

現在、イギリス唯一の戦略核攻撃力として保有するヴァンガード級戦略原潜は、前任のレゾリューション戦略原潜の後継として1993年から99年の間に4隻が就役しました。
アメリカ海軍のオハイオ級戦略原潜が搭載しているのと同じ、推定射程1万km以上のトライデントD5ミサイルを一隻当たり16発搭載しています。
1980年代の前半から就役を開始して今も現役のアメリカ海軍のオハイオ級に比べると、まだまだ艦齢に余裕がありそうに見えますけれど、イギリス海軍原潜の核燃料はアメリカ海軍のそれに比べて濃縮率がかなり低いそうです。
まぁこれはアメリカ海軍が異常に高い濃縮率の核燃料を使用していて、イギリスが技術的に特に劣っているわけではないのですけれど。
低濃縮の核燃料を使用しているが故に、燃料交換時期が比較的早期になってしまい、燃料交換と大抵は同時に行われる艦のオーバーホールと近代化改装、そして燃料交換の為に耐圧船穀に手を加えた後の艦の余命。
これらを勘案すると、新型艦を調達した方が長い目でみれば安上がりという判断もあるでしょう。
また原潜の建造技術を維持し続けていくには、低能率であっても造船所の仕事を確保しなければなりません。
日本でも海自の潜水艦建造に切れ目が無いのはそういう観点もありますし、冷戦終結後のアメリカにおいても、原潜の新規建造が激減してこのままでは建造技術やノウハウを維持できなくなるのではないかと問題提起されたこともありました。
イギリス海軍のように、潜水艦の所帯が小さいところはその辺が実に心配になるところです。
潜水艦のような民需要素の無い特殊な船は、予算削減で単純に造船所の仕事を無くすと、必要な技術やノウハウが人員と共に消滅散逸してしまって、後で必要になったからと言っても再起は容易ではないのです。
また軍事的側面だけではなく、建造による雇用その他の経済的側面も見逃せないところであります。

ただ、戦略原潜4隻体制を維持というのは私的にはちょっと意外だったのですよ。
財布が厳しいイギリス政府としては、もっと大胆な案を切り出してくるのではないかと思っていたのです。
4隻を3隻、いやもっと大胆に2隻に切り詰めるとか。
戦略パトロールの常時実施を諦めて、危機切迫時のみ1隻を攻撃発起海域まで進出させることにすれば、保有3隻でもやっていけるでしょう。
また外洋からの攻撃を諦めて、イギリス本土近海から攻撃することにすれば2隻でも大丈夫かもしれません。
その場合は全地球的攻撃能力を事実上失うことになりますけれど、中国を核攻撃しようなどと考えなければ、それでも構わないのではないかと思うのです。
エキセントリックなイギリス人のことですから、そこまでいくのではないかと密かに期待wしておったのてすけれど、やはり常時全地球的攻撃能力を持ち続けるのは大国イギリスの矜持なのですな。
ただ一隻当たりのミサイル搭載数は現在のヴァンガード級の16基から12基、いや8基に削減するかもしれませんな。
新型艦は就役から暫くの間は寿命延長と近代化を施したトライデントD5ミサイルを搭載することになりましょうが、それら改修にも相当のカネがかかるので、かかった分だけミサイルの配備数を減らすのは必然の流れではなかろうかと。
削減されたミサイルの数に合わせてフネの搭載能力も決めるのです。
あとはミサイル一基当たりの核弾頭数を切り詰めることになるのかどうか。
ヴァンガード級の搭載するトライデントD5ミサイルには、準戦略型と呼ばれる単弾頭型があります。
これはいわゆる「ならず者国家」に対する核攻撃オプションとして実施されているのですけれど、昨今のロシアとの対立が深刻化すると、ミサイル一基当たりの搭載核弾頭数を減らすのには抑止上問題が生じるかもしれません。
一方イランとの関係改善が進み、かの国のこれ以上の核兵器開発を抑えることが出来るならば、ならず者国家対策で高価なミサイルに弾頭を一発のみ搭載するというやり方も再検討されるでしょう。
そうなれば戦略原潜はその原点に立ち返って、核弾頭数は削減せずに近代化と寿命延長を施したトライデントミサイルにしっかりと複数弾頭を搭載して、本来の戦略核抑止専従に回帰することになるのでしょうね。

しかしながら今回の決定が実行されるかどうか危ぶまれる件が一つ。
それはイギリスのEU離脱です。
現在、イギリス海軍は戦略原潜唯一の基地としてスコットランドのファスレーンに居を構えておりますけれど、EU離脱の賛否を問う先の国民投票では、スコットランドはEU残留が多数派だったのです。
一昨年のスコットランド独立の是非を問う住民投票の結果、スコットランドはイギリスに残留することになりました。
当時の触れ込みでは、今後この件はそうとう長期に渡って再提起しないことになっていましたが、ここにきてスコットランドでは独立の是非を問う住民投票を再度やるべきという声が上がってきているそうです。
二年前に出したイギリス残留という結論は、イギリスがEUに加盟しているという前提での話だったというのです。
イギリス政府は再度の住民投票なぞ容易には認めないでしょうけれど、もし実施されてスコットランドが独立してしまったら、イギリス海軍は唯一の戦略核基地を失うことになりかねないのです。
もし独立スコットランド政府が領土内からのイギリス軍撤退を要求したら?
残るイングランド、ウェールズ、北アイルランドの海軍基地に莫大な費用をかけて移転するのか?
地元住民はそれを受け入れるのか?
なかなか難儀な話になりそうなのですよ。

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2016年5月21日 (土)

「第二次大戦のイギリス軍艦」で元戦艦アイアン・デューク女史に妄想を廻らす

ども。
先日、世界の艦船増刊の「第二次大戦のイギリス軍艦」が発売されたので早速入手。
私はかつて当ブログで、戦後のイギリス海軍勢力の消長について連載したほど、イギリス海軍が好きなのです。
海軍の本分は海上交通を保護して国民生活を維持すること。
それを列強海軍の中で最も貫いているのがイギリス海軍だからです。
対米艦隊決戦を前提にして全てをそこに向けて組織を構築している、帝国海軍とは根本からして違うのです。
帝国海軍は対米戦を迫られた時、今まで営々と大金をかけて築いた連合艦隊がアメリカを相手に戦えないと今更言えずに無謀な戦いに突入してしまいました。
しかしイギリス海軍にはそのような尖がった戦略などありません。
地中海でイタリア海軍と戦うのも、北海でドイツ海軍と戦うのもそれは帝国海軍が考えているような艦隊決戦ではなく、味方の海上輸送路をいかにして保護して戦争遂行能力を、国力を維持するかという基本路線の単なる派生でしかないのです。
従って全てにおいて融通無碍、帝国海軍ではおそらく発想の外であっただろう、戦艦を重要船団の護衛に付ける事も開戦直後からやっているぐらいです。
その辺が個人的に非常に好ましく思えるのですよ。

私は昭和55年に出版された旧版も持っていますが、これは現在の目で見ると本文の構成がキッチリ纏まっておらず、ちょっと見難いのです。
また艦艇の要目や艦名は巻末に纏めてあるので、本文と巻末をいちいち見返さなくてはならず、ハンディな参考文献としては、はなはだ使い勝手が悪いのですよ。
世界の艦船別冊では他に「アメリカ」「フランス」「イタリア」「ドイツ」の第二次大戦の軍艦シリーズがありますが、昭和57年発行の「ドイツ」は「イギリス」と同じ構成でこれもまた見難い。
昭和59年発行の「アメリカ」では、本文の艦船各級の艦名と要目が同一ページに纏められて俄然見やすくなったものの、翌年発行の「フランス」では要目が巻末になってまた見難くなっていました。
構成が現代風に落ち着くのは昭和61年発行の「イタリア」になります。
「アメリカ」については既に新装版が出ていて、今回の「イギリス」は第二次世界大戦の軍艦シリーズのリニューアル第二弾になります。
マニアとしては、「ドイツ」「フランス」「イタリア」の早期のリニューアル、そして「ソ連」を加えて欲しいものです。
個人的には特に「フランス」の新装版が欲しいなぁ。

さて新装版の「第二次大戦のイギリス軍艦」ですが、本文は見やすくて文句無し。
写真もこれまでの「軍艦史」シリーズで見たことが無いモノがあって、例えば重巡洋艦のページには目が釘付けでしたがな。
戦時中に電探と対空砲を装備拡充して、すっかりイカツイ艦容になった「ロンドン」「サセックス」「ノーフォーク」辺りは萌え~の一言w
残念だったのは護衛艦艇が一括りにされていたことで、私は今回新装版が出るという話を聞いて最も期待していたのが、少なくともフリゲイトを単独のコーナーで扱い、艦名と要目、写真を纏める事だったのです。
フリゲイト(及びコルベットとスループ)こそは、海上交通保護を本分とするイギリス海軍の象徴だと認識していたからです。
「アメリカ」ではフリゲイトに相当する護衛駆逐艦を、駆逐艦以上の艦種と同じ扱いで載せていますから、イギリス海軍のフリゲイトもそうしても罰は当たるまいに。
こうなれば「イギリス護衛艦史」の発行に望みをかけたいところであります。
戦前のスループから始まって戦時中のフリゲイト、コルベット、そして戦後のフリゲイトを網羅した一冊をぜひ出していただきたいところであります。

旧版に無かったフネとして、おおっと惹きつけられたのは砲術練習艦「アイアン・デューク」。
第一次世界大戦勃発時にはグランド・フリートの旗艦であった栄光の元超ド級戦艦です。
それがロンドン海軍軍縮条約締結で、主砲と装甲を減じた砲術練習艦に転じて第二次大戦を迎えました。
同じ境遇のフネとしては帝国海軍の「比叡」とアメリカ海軍の「ワイオミング」がいますけれど、前者は大改装を加えられて、高速戦艦として再生し帝国海軍得意の夜戦で敵巡洋艦部隊に大損害を与えながらも、航空攻撃で退路を封じられた形になり沈んでいます。
しかし敵艦隊と壮絶に撃ち合って相手に大損害を与えた末の最期ですから、武人のフネとしては納得のいく生涯だったと言えましょう。
「ワイオミング」は最終的には対空射撃練習艦としてアメリカ海軍の戦勝に貢献した後、1947年に除籍されていますからハッピー・リタイアと申せましょう。
しかし我らが「アイアン・デューク」は開戦翌月の空襲で損傷擱座してしまうのです。
ウィキペディア英語版によると、1941年5月のドイツ海軍戦艦「ビスマルク」の出撃に際して、ドイツ側はイギリス本国艦隊の根拠地スカパ・フロー泊地への偵察で「アイアン・デューク」と他に二隻の戦艦に偽装したダミーシップを現役の戦艦と誤認したようで、それが「ビスマルク」の出撃に影響を与えたんだとか。
イギリス本国艦隊の主力艦三隻はスカパ・フローにいるから、今が出撃のチャンスと考えたのでしょう。
その判断が巡り巡って「ビスマルク」撃沈による大西洋の海上交通死守に繋がったと思えば、死せる孔明生ける仲達を走らすと言えなくも無い「アイアン・デューク」なのでございます。

ここで妄想を廻らせてみたいのは、もし「アイアン・デューク」が健在であったなら、実戦に投入する機会は果たしてあったのか?という事。
健在な34.3サンチ連装砲三基をもって、上陸作戦時の火力支援や重要船団の護衛任務に就かせるのは果たして現実的な話であろうか?と。
30.5サンチ連装砲三基が健在なアメリカ海軍の練習戦艦「ワイオミング」も、戦争前半に火力支援艦としても使えるように考慮の上で改装が行われています。
アメリカ海軍よりもその種の艦艇に逼迫を生じていて、新規にモニターを建造する程であったイギリス海軍ですから、戦局如何では「手持ちのブツは使えるだけ使う」とばかりに実戦に引っ張り出していたのではないかと考えるところなのです。
一度は一線から退きながらも、祖国の危機に老骨に鞭打っていくさ場に馳せ参じる。
こういう画は実に日本人好みで燃えるシチュエーションではないかね諸君!

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2016年5月13日 (金)

さらばシーハリアーそして第一世代ハリアー

備忘録的に。
5月11日、世界最後の運用可能なシーハリアーV/STOL戦闘攻撃機が、インド海軍から退役したそうです→ソースはhttp://dailynewsonline.jp/article/1125654/

何分、物持ちのよいインド海軍ですので、私はてっきりシーハリアーはまだまだ使い続けるのだろうと漠然と考えていましたので、このニュースは意外で驚きました。

イギリス空軍向けに開発されて1970年に実戦配備を開始したハリアー攻撃機を、イギリス海軍が艦隊空母の退役と搭載するファントムFG.1戦闘機空軍移管後のささやかな代替として、全通甲板型巡洋艦インヴィンシブル級搭載用として艦載機化、レーダーを搭載して制限付き全天候迎撃能力を持たせたのがシーハリアーFRS.1戦闘攻撃機です。
実戦配備は1980年でした。
1982年に生起したフォークランド紛争では、シーハリアーを搭載した軽空母ハーミーズとインヴィンシブルを主力とする艦隊が出撃し、シーハリアーが前評判(アルゼンチン空軍の主力戦闘機ミラージュⅢに対して著しく劣速)を覆す活躍で、世界にその名を轟かせました。
日本でも一時期、シーハリアー萌えの空気が広がり、80年代半ばの海上自衛隊の洋上防空能力向上計画では、イージス艦の導入とシーハリアー搭載の軽空母導入のいずれかが検討されていたりするのです。

このシーハリアーにいち早く目を付けたのが他ならぬインド海軍で、最初の発注はフォークランド紛争以前の1979年。
イギリス製軍用機の常として大きな数字を与えられ、シーハリアーMk.51と呼称されたV/STOL戦闘攻撃機はフォークランド紛争終結直後の1982年8月に初飛行し、当時インド海軍唯一のイギリス製軽空母「ヴィクラント」に、これまたイギリス製の艦上戦闘機シーホークの後継として配備されたのです。

インド海軍がシーハリアーの採用をいち早く決定したのは、彼らがシーハリアーの能力を評価したというよりは、つらつら考えるに
「これしか他に買える機体が無かった」
からかもしれません。
当時、インドはソ連の事実上の同盟国であり、アメリカからの兵器輸入などとても望めない状況にありました。
「ヴィクラント」はフォークランド紛争時のアルゼンチン海軍空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」と同型艦です。
従って発着艦設備の改良を行えば、「ベインティシンコ・デ・マヨ」同様にアメリカ製A-4スカイホーク攻撃機の運用が、運用制限付きながら可能であったはずです。
しかしアメリカとの当時の関係では、A-4の購入などとても無理な話。
インドの事実上の同盟国たるソ連はキエフ級航空巡洋艦搭載用として、YaK-38フォージャーV/STOL戦闘攻撃機を1970年代半ばから実戦配備を開始していました。
しかし当のソ連海軍自身がこの機の運用にまだ試行錯誤をしている状況で、且つ性能的にもかなり物足りなくシーハリアーよりも明らかに劣っています。
フランス海軍は、これまたフォークランド紛争でイギリス海軍のミサイル駆逐艦を、搭載するエグゾセ対艦ミサイルで撃沈して勇名をはせたシュペル・エタンダール戦闘攻撃機を1978年から実戦配備を開始していました。
しかし前述の「ベインティシンコ・デ・マヨ」の航空機運用能力では同機の運用が困難で、フォークランドで活躍したアルゼンチン海軍所属のシュペル・エタンダールも空母からではなくアルゼンチン本土の陸上基地から作戦を実施したのです。
「ベインティシンコ・デ・マヨ」で運用困難なのであれば、その同型艦である「ヴィクラント」もシュペル・エタンダールの運用は困難なはずです。
アメリカ製の蒸気カタパルトを導入して「ヴィクラント」に装備できれば、運用もあるいは可能であったかもしれません。
しかしアメリカとの関係はそれを許しません。
A-4スカイホーク攻撃機は対米関係が悪過ぎて買えない。
Yak-38戦闘攻撃機は艦載用としてまだ不安があり性能的にも不満。
シュペル・エタンダール戦闘攻撃機は空母の能力上、運用は極めて困難。
消去法で残るのは唯一、シーハリアーだけだったのです。

本家本元のイギリス海軍では、フォークランド紛争の戦訓を取り入れた改良型のシーハリアーFA.2を開発し、既存のシーハリアーFRS.1の改造と新造機というダブルトラックで、1990年代初めから実戦配備を開始します。
シーハリアーFA.2はレーダーFCSの換装によって完全な全天候迎撃能力を備え、最新鋭のアクティブレーダー誘導式空対空ミサイルAMRAAMの運用が可能です。
しかし当時は所謂第二世代のハリアーであるアメリカ製AV-8Bが幅を利かせていて、フォークランド紛争後にハリアーを新たに導入したイタリア、スペイン両海軍はシーハリアーではなくAV-8Bを選択しています。
AV-8Bは航続性能、搭載能力においてシーハリアーを凌駕しており、加えてF/A-18ホーネット戦闘攻撃機と同じレーダーFCSを搭載したAV-8Bプラスならば、シーハリアーFA.2を凌ぐ迎撃及び対地攻撃能力を獲得できるのですから、後発のハリアー採用国がシーハリアーを選ばなかったのも当然の話なのです。
イギリス海軍のシーハリアーも、冷戦後はその高い迎撃能力も宝の持ち腐れ、重要度が増した対地攻撃ではAV-8Bやそれを逆輸入した形のイギリス空軍第二世代ハリアーよりも明らかに見劣りがして、21世紀に入ってからのイギリス軍の戦力見直し構想でリストラの対象になってしまい、2006年に退役してしまったのです。
新造のシーハリアーFA.2は18機で、その機齢はこの時点でまだ十数年。
まだまだ使える状態ですから、当時私はインド海軍が買うのだろうと思っていました。
しかしそれは果たされる事がなく、また聞いた話ではシーハリアーMk.51にインドとフランスが共同で近代化改修を実施して、フランス製アクティブレーダー誘導式空対空ミサイルMICAを運用可能とする計画も予算不足を理由にボツ。
抜本的な改修を行わないまま、最後のシーハリアー、そしておそらくは最後の第一世代ハリアーであるこのMk.51がついに退役の日を迎えたのです。
第一世代ハリアーを導入したのはイギリス空軍及び海軍、アメリカ海兵隊、インド海軍、スペイン海軍、タイ海軍ですが、米英西各軍からはとうの昔に退役、タイのハリアーはスペイン海軍を退役した中古機で機齢は40年近く、近年は活動していないようで事実上退役しているようですから。

シーハリアーの退役と共に、かつてのイギリス海軍空母「ハーミーズ」の後身であるインド海軍空母「ヴィラード」も来月に退役との事です。
「ハーミーズ」は第二次大戦末期の1944年6月に起工されましたが、戦争終結で暫く放置。
後に設計を大幅に変更して、最初からジェット艦上機運用能力を持つ中型艦隊空母として1959年11月に就役。
その後、イギリスの国防政策の抜本的変更で艦隊空母全廃の方針を受けて、70年代初めにイギリス海兵隊輸送用のコマンド母艦に改造されて再就役。
さらに対潜能力を追加された後、スキージャンプ甲板を設置してシーハリアーの効率的な運用能力を獲得し、フォークランド紛争ではイギリス派遣艦隊の旗艦として出征。
1985年に退役後、インドに売却されてインド海軍空母「ヴィラード」として1987年に再就役して、今日までインド海軍の力の象徴として君臨していたのです。
実にもって波乱万丈の生涯であります。
武勲を挙げ軍歴を全うしたハッピー・リタイヤメントと申せましょう。
この艦の退役で、第二次大戦に起源を持つ現役の水上戦闘艦は、フィリピン海軍のフリゲート艦「ラジャ・フマボン」(元アメリカ海軍カノン級護衛駆逐艦で、海上自衛隊在籍時代の艦名は「あさひ」)だけとなりました。

・・・そう言えばフィリピンはまた、大変な話になりそうですな。
私設警察みたいな処刑団を率いて、犯罪者を殺して回ったという人物が次期大統領ですよ。
いくら治安が悪いとはいえ、法治主義なにそれおいしいの!?ですがな。
そんな御仁ですから、特亜ばりの人治主義で酷いことになるんじゃないかと心配です。
南沙諸島の領有権は棚上げにして中国と経済協力する方針で、日米とも距離を置くそうですから、南沙は中国のモノになっていくのでしょうな。
その中国は南沙の埋め立て地に浮動式の原発を置くのだとか。
いざとなったら不幸な事故アルとでっかい声でわめいて、メルトダウンとかさせちゃいそうですな。
この話も怖い怖すぎます。
そんな中国を牽制するためにも、インド海軍の質的向上は日本としても歓迎すべきことなのでしょう。

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2011年2月23日 (水)

英国海軍・SDSRに至る21世紀最初の十年

1960年から十年毎に区切って英国海軍主要勢力の消長を概観して参りましたが、今回はその最終回です。
破断界を越えつつあるか英国海軍?」で述べた昨秋発表のSDSRに至る、今世紀に入ってからの道程です。

2001~2010年の英国海軍主要トピックスは下記の通り。

2001年
新型SSN一番艦「アスチュート」起工。
元々はスイフトシュア級の後継であったはずが、計画遅延で結果的にトラファルガー級の代替になってしまいました。

2002年
シーハリアーF/A.2の退役を発表。
前回エントリーに書き忘れてしまったのですが、英海空軍は2000年に「ハリアー統合部隊」を発足させています。
これは海軍のシーハリアーと空軍のハリアーGR.7/9を統合運用化して、空軍所属ハリアーを軽空母への随時展開を制度的に担保するものでした。
レーダー誘導AAMを運用可能で防空/制空能力に長けたシーハリアーと、搭載量大で対地精密誘導兵器を運用可能なハリアーGR.7/9の組み合わせによって、軽空母は従来よりもより自己完結的な航空打撃力を付与されたはずでしたが・・・。
しかし英国海軍軽空母が運用される実戦環境は、米国と組んでの湾岸・イラク戦争型とアフリカの旧植民地の内戦等に対する人道的介入の二つ。
双方共に必要なのは空軍のハリアー運用能力(対地攻撃能力)であって、艦隊防空能力も制空能力も必要とされないのです。
前者は米軍の圧倒的な航空優勢の元で戦いますから、シーハリアーの出る幕は無し。
後者は相手にまともな航空戦力など存在しませんから、こちらでもシーハリアーの出番は無し。
一方対地攻撃能力においては、第一世代のシーハリアーよりも第二世代のハリアーGR.7/9が確実に勝っています。
国防予算が依然として削減されている現状ではせっかくのハリアー統合部隊も企画倒れで両手に花は無理、ならばより実効性、必要性の高い空軍ハリアーを残すという内幕ではなかったかと推測しますが実際は果たして?

計画中の新空母搭載機に米国と共同開発のF-35Bを選定。
超音速ステルスV/STOL戦闘攻撃機F-35B計画は絶賛大炎上で、昨秋発表のSDSRで英国海軍がF-35Bから米海軍型F-35Cに鞍替えを明記したのは皆様ご存知の通り。

本年限りで22型フリゲイトバッチ2が全艦退役、6隻中3隻を海外売却
(ルーマニア2隻、チリ1隻)。

フォークランド戦勝の立役者であるドック型揚陸艦「フィアレス」退役。

2003年
新型DDG一番艦「デアリング」起工。
仏伊との防空艦共同開発計画から脱退した英国独自の新世代艦隊防空艦がようやく起工です。
しかしその調達数は当初の12隻から8隻へ、最終的に6隻にまで切り下げられてしまいます。
独自設計とはいえ艦隊防空システム自体は共同開発計画のものを引き継いでいて、VLSも米国のMk41ではなくシルヴァー。
従ってトマホークやSM-3は現状では物理的に運用不能であり(シルヴァーA70型はトマホークを運用可能と言われておりますが、米国が他国開発の武器システムでトマホークが運用されるのを黙って見ているのかちょっと疑問)、この辺を今後どうしていくのか要注目。
新空母の去就如何では、英国海軍水上戦闘艦へのトマホーク装備もあり得ると思うのですが、その際は米国製VLSを追加装備するのか(艦の発達余裕はどの程度を見込んでいるのか)、それともシルヴァーを撤去してVLSを米国製に全面換装するのか?

新型ドック型揚陸艦一番艦「アルビオン」就役。
1998年に就役したヘリコプター揚陸艦「オーシャン」とコンビを組む新世代の揚陸艦です。

2004年
特記事項無し

2005年
軽空母「インヴィンシブル」退役、2010年まで予備艦として保持。
有事の際には現役復帰可能なようにモスボール保存されておりましたが、その期限は延長される事なくオークションで売却という、これまたフォークランド戦勝の立役者にとって寂しい末路でした。

2006年
シー・ハリアーF/A.2退役。
これで英海軍航空隊から艦載用固定翼機は一旦全廃です。
F-35C導入で復活の予定ですけれど、これは新空母の去就如何。
英国の今後の財政状況と次期総選挙の結果次第でどう転ぶか知れたものではありません。
何しろ我が国と異なり、冷徹にあっさり切り捨てるのが英国流ですので。
またこれで軽空母搭載ハリアーは空軍機のみとなりましたが、その空軍ハリアーも昨年末に退役してしまって、現在ただ一隻残る軽空母「イラストリアス」はその存在価値を事実上失った形に。
2014年までに退役とされておりますが、存在意義の無くなった艦をあのドライな英国政府があと3年も就役させておくとは思えず、実際には相当に前倒しされて今年の年末にはイラストリアス退役という外電に接する事になるやもしれませんね。

前年及び本年に23型フリゲート計3隻が退役、チリに売却。
古い艦で艦齢16年、新しい艦で艦齢9年での退役売却です。
この3隻の早期退役は御多聞にもれず国防予算削減によるもののようですが、本級よりも22型バッチ3を退役売却したほうが・・・
なんですけれど。
チリに売却するにしても、かの海軍は既にバッチ2を1隻購入して運用していますから要員訓練や補給面で都合が良いと素人は思うところです。
艦齢だってこの時点でまだ20年未満ですし。
この3隻の艦の状態が特別悪くて修理が高く付き、費用対効果が宜しくなかったなどの裏事情の故なのでしょうか?

2007年
特記事項無し。

2008年
特記事項無し。

2009年
新空母一番艦「クイーンエリザベス」起工。
新型DDG一番艦「デアリング」就役。

2010年
新型SSN一番艦「アスチュート」就役。
軽空母「インヴィンシブル」除籍、同「アークロイヤル」退役。
スイフトシュア級SSN最後の現役艦「セプター」退役。

そして本年(2011年)には、4月末までに22型バッチ3全艦(4隻)
が退役。
トラファルガー級SSNは2009年末に退役した「トラファルガー」に続き「タービュレント」が退役予定。
このエントリーの翌日(2月24日)に42型DDGバッチ3の「マンチェスター」が退役予定。
バッチ2最後の現役艦「リバプール」は来年まで現役に留まるようで、マンチェスターが去りリバプールが残るのは艦のオーバーホール時期の差異によるものなのかもしれません。
一方就役艦(予定)は45型DDG2隻のみ。

これからの10年間、果たして英国海軍はどのような消長の途を辿っていくのか。
前述のように財政状況の更なる悪化と次期総選挙の結果次第では、空母計画の完全中止(2隻共海外売却)と次期新型ミサイル原潜の建造数切り下げ(例えば常時戦略パトロール実施を放棄して、場合によっては母港内からSLBMを発射する態勢をとるとか・・・それなら2~3隻建造でもなんとかなるかも!?)すら絵空事では無いように思えます。
その前段としては空母の英仏共同運用の可能性もあり(噂レベルでは色々囁かれておりますけれど)、また任務部隊に空母不在時の対地攻撃火力維持の為に上述した水上戦闘艦へのトマホーク搭載が考えられるところでしょう。

英国海軍の動静には興味が尽きないところであり、今後も個人的に目を惹くトピックスがあれば、随時書いてまいりたく存じます。

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2011年2月16日 (水)

2000年の英国海軍

前回エントリー「1990年のロイヤル・ネイビー」の続きで、今回はミレニアム
2000年時点の英国海軍勢力を振り返ってみます。

まず1991~2000年の英国海軍関係主要トピックスは下記の如し。

1991年
湾岸戦争(1月17日~3月3日)。
イラク沿岸の敵陣地砲撃に当たる米海軍戦艦「ウィスコンシン」の対空直衛
任務中のミサイル駆逐艦「グロスター」が、飛来したイラク軍シルクワーム
SSMをシーダートSAMで撃墜。
これは実戦で艦載SAMがSSMを撃墜した最初の事例。

ミサイル駆逐艦「ブリストル」退役(以後停泊練習艦として使用)。

1992年
特記事項無し。

1993年
本年限りでリアンダー級フリゲイトとオベロン級通常型潜水艦が英海軍
から退役。
新型SSBN一番艦「ヴァンガード」就役。

1994年
本年限りでアマゾン級フリゲイトが英海軍から退役(パキスタン海軍に売却)。
トマホーク巡航ミサイル調達計画スタート。

1995年
本年限りでアップホルダー級通常型潜水艦退役(カナダ海軍に売却)。
これにより英海軍から通常型潜水艦が姿を消す。
シーハリアーF/A.2がNATOによるボスニア紛争飛行禁止空域監視
作戦で実戦初参加。

1996年
本年限りでレゾリューション級SSBN&ポラリスSLBMが退役。
「準戦略型」トライデントⅡSLBMをSSBN「ヴィクトリアス」に配備。
これは英空軍運用の戦術核爆弾退役に伴う措置で、比較的低威力の核弾頭
1発だけをトライデントⅡSLBMに搭載して戦術/戦域核兵器としての役割を
持たせる事。
これによって英軍の核兵器は全てトライデントⅡに集約されました。

1997年
本年限りで22型バッチ1フリゲイトが英海軍から退役(ブラジル海軍に
売却)。

1998年
新型ヘリコプター揚陸艦「オーシャン」就役。
原潜「スプレンディド」がトマホーク発射試験を実施。

1999年
ドック型揚陸艦「イントレピッド」退役。
ユーゴ空爆作戦において原潜「スプレンディド」が英海軍最初のトマホーク
攻撃を実施。
仏伊と共同開発していた次期防空艦開発「ホライズン」計画から離脱。

2000年
特記事項無し。

冷戦終結、そして湾岸戦争と旧ユーゴスラビアでの一連の紛争介入によって、
英国海軍は冷戦型の対潜最重視から地域紛争介入(一度放棄したはずのNATO
域外への戦力投射)重視へ急激に変身を遂げます。
軽空母インヴィンシブル級は1990年代後半から順次改装を受けて航空機
運用能力を拡大(代わりにシーダートSAMを撤去)して、より対地攻撃力の高い
空軍のハリアーを本格的に受け入れ可能となって潜在的航空打撃力を増大さ
せ、またハリアー/シーハリアーよりも攻撃レンジの大きいトマホーク巡航ミサ
イルを米国から導入して攻撃型原潜に順次搭載し、陸上への火力投射を軽空
母とのダブルトラックで実施可能になりました。
さらに海外への戦力投射に欠かせないコマンド部隊の新たなる移動基地として
ヘリコプター揚陸艦「オーシャン」が就役して、かつてのコマンド空母退役に伴い
永らく失っていた本格的な立体揚陸作戦能力を再獲得し、これで米海軍に比べ
れば遥かに小規模であるとはいえ、自己完結的な地域紛争介入能力確保に
成功したのは流石ロイヤルネイビー、腐っても鯛(ちょっと失礼か)と言える
でしょう。

勿論、冷戦後の国防予算の削減が続く中でこのような施策を実行するから
には、この原資を生み出す為に冷徹に切り捨てられる要素もあるわけで・・・。
それが対潜任務です。

浅海域での対潜戦の主役となる筈であった最新鋭通常型潜水艦アップホルダ
ー級は、元々12隻建造予定だったのが4隻にまで切り下げられ、その4隻も
就役後数年で全艦退役という、我が国ではとても考えられない(国会で金の無駄
使いと追及されて防衛相は辞任に追い込まれるでしょうね)思い切った措置を
とられてカナダ海軍に売却。
従来の主力オベロン級は艦齢に達して退役し、これで水中での対潜戦全般は
SSNが全てを引き受ける事に。しかしそのSSNもトマホークキャリアーとして
の新たな役割を与えられていますから、冷戦中のように対潜専従とはいきま
せん。

対潜水上艦についても退役売却の大盤振る舞いで、艦齢に達しつつあった
リアンダー級の退役は、何分主機が手間のかかる蒸気タービンであります
から仕方無い話なのではありますが、より新しい21型、さらに22型バッチ1
まで海外売却という、こちらも我が国では考えられない割り切り方です・・・。

そうして迎えたミレニアム2000年の英国海軍主要戦力は以下の通り。

戦略ミサイル原潜:4隻:ヴァンガード級。戦略/準戦略核任務兼務。

攻撃型原潜:12隻:トラファルガー級7隻、スイフトシュア級5隻。トマ
ホーク運用能力を順次付加中。

軽空母:3隻:インヴィンシブル級。航空機運用能力拡大改装を順次
実施中。

ミサイル駆逐艦:11隻:42型。

フリゲイト:20隻:23型14隻、22型6隻(バッチ3x4隻、バッチ2x
2隻)。

ヘリコプター揚陸艦:1隻:オーシャン。

ドック型揚陸艦:1隻:フィアレス。

1990年と比較して量的に現状維持なのは戦略ミサイル原潜と軽空母、
揚陸艦。攻撃/哨戒潜水艦は総数で約45%、攻撃型原潜に限って
みても2割減。
通常型潜水艦全廃は浅海域での水中対潜能力を切り捨てたのですから
止む無し。
攻撃型原潜は隻数を減らした代わりに、トマホーク運用能力を付与して
対陸上火力投射能力を獲得させ質的に向上を見せましたからイーブン
といったところ。
水上戦闘艦は約35%減で、1998年に発表された”SDR”(Stra
tegicDefence Review)で水上戦闘艦に対する評価基準が
従来とは変化して優先順位が低下した(恐らく対潜能力の重要度大幅
低下と対陸上火力投射力不足)事を裏付けていると言えましょう。
何しろまだまだ若く使い出のある22型が8隻も退役しているのです。
これら主要戦力合計は52隻、満載ベースの排水量合計は約36万
トン。
トンベースでは1990年比10%強減。

一方海自はバブル崩壊とデフレで経済が疲弊しながら着々と質的向上
が続きました。
その勢力は、

DDH: 4隻:しらね型2隻、はるな型2隻。
DDG: 9隻:こんごう型4隻、はたかぜ型2隻、たちかぜ型3隻。
 DD:28隻:むらさめ型6隻、あさぎり型8隻、はつゆき型11隻、
FRAMたかつき型2隻、やまぐも型1隻。
 DE:12隻:あぶくま型6隻、ゆうばり型2隻、いしかり、ちくご型3隻。
 SS:15隻:おやしお(Ⅱ)型3隻、はるしお型6隻、ゆうしお型6隻。
LPD: 1隻:おおすみ型1隻。

護衛艦総数は53隻で、対潜ヘリ搭載(搭載可能)率約55%、アスロック
搭載率約94%、SAM搭載率約75%、SSM搭載率約81%。
何より目を惹くのはイージスDDGの就役。
潜水艦は全艦ハープーンSSMを搭載し、海自史上初のドック型揚陸艦が
就役。
主要勢力の隻数自体は微減しましたが満載ベースの排水量合計は約32
万トンで、1990年比で約25%増。
それだけ個艦の規模(すなわち能力)が大きくなった事を如実に表しております。
英海軍との比較でも隻数では上回り排水量合計は9割近くまで接近。
対陸上投射火力では比較にならないほど劣弱(そもそもそういう能力付与は
考慮外なので比較の対象にする事自体ナンセンスなのですが)ではある
ものの、洋上対潜/対空能力では互角もしくは上回るレベルに到達して
います。

さて次回は英国海軍の趨勢一応の最終回、21世紀の最初の10年間
の英海軍の動静について。

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2011年2月 9日 (水)

1990年の英国海軍

回エントリー「1980年の英国海軍」の続きで、今回は1990年時点の英国海軍
勢力を振りかえってみます。

まず1981~90年の英国海軍関係主要トピックスは下記の如し。

1981年
1979年に再就役していたコマンド空母「ブルワーク」退役。

サッチャー保守党政権の財政再建政策に伴う海軍削減計画が公表
される。
その主な内容は下記の通り。
1.軽空母は2隻体制に削減、完成間もない「インヴィンシブル」はオース
トラリア売却。
2.ドック型揚陸艦「フィアレス」「イントレピッド」廃棄。これにより英
海兵隊は事実上揚陸作戦能力を喪失。
3.駆逐艦/フリゲイトの総数を50隻に削減(1980年時点で62隻)。

1982年
フォークランド紛争(3月~6月)
英海軍主要艦艇喪失は下記の通り。
ミサイル駆逐艦「シェフィールド」:エグゾセ空対艦ミサイルによる。
同      「コヴェントリー」:アルゼンチン軍機の爆撃による。
フリゲイト  「アーデント」  :同上。
同      「アンテロープ」 :同上。

一方、攻撃型原潜「コンカラー」がアルゼンチン海軍巡洋艦「ヘネラル・
ベルグラーノ」を撃沈し、史上初の原潜による実戦での艦船撃沈を記録。

また、ウィキペディア英語版によると、予備艦として保管されていたコマン
ド空母「ブルワーク」と対潜ヘリ巡洋艦「タイガー」「ブレイク」について、紛争
勃発後に再就役の可否について調査が実施されたとの事です。
巡洋艦は主に陸上への6インチ主砲による艦砲射撃の為、ブルワークは明記
されておりませんでしたが、艦の性格から見て当然ヘリによる着上陸支援の為
でしょう。
ブルワークは退役間もない事から早期の再就役が期待されたようですが、
艦の状態が予想外に悪く見送り、タイガーとブレイクも紛争が比較的短期間で
終結した事で再就役はキャンセルに。
その後ブルワークは1984年に解体、ブレイクは紛争終結直後の8月に解体
されましたが、タイガーはその後も保管され1986年に解体。
タイガーはフォークランドをアルゼンチン軍が再占領した場合の奪還作戦に
その主砲が有用であると考えられた故の1986年までの保持と推測しますが
実際のところは如何に?

フォークランド紛争終結直後に軽空母二番艦「イラストリアス」就役。
次期SSBN(ヴァンガード級)計画開始、米国からトライデントⅡSLBM導入決定

1983年
オーストラリアに対して売却撤回したインヴィンシブルの代替としてハーミ
ーズをシーハリアーとセットで売却提案するも拒否される(そりゃそうだよ
なぁ・・・w)。
トラファルガー級攻撃型原潜一番艦「トラファルガー」就役。

1984年
英国海軍初のガスタービン推進戦闘艦であるトライバル級フリゲイト最後の
現役艦「タルタル」「ズールー」退役。
なおこの両艦共に1980年に退役後保管中にフォークランド紛争勃発の為
再就役という経緯がありました。
両艦の退役(インドネシアに売却)後に英国海軍に残るトライバル級は81年
以来停泊訓練艦として使用されている「アシャンティ」のみに(1988年標的
処分)。

1985年
インヴィンシブル級軽空母三番艦「アークロイヤル」就役。
英国海軍最後の中型空母「ハーミーズ」退役。
英国海軍戦後計画のフリゲイト第一号・ホイットビィ級最後の現役艦
「トーキー」退役。


1986年
「ハーミーズ」インドに売却。インド海軍空母「ヴィラード」として就役。
次期SSBN一番艦「ヴァンガード」起工。
英国海軍最後の巡洋艦「タイガー」解体。

1987年
英国海軍最初のミサイル駆逐艦・カウンティ級最後の現役艦「ファイフ」
「グラモーガン」退役(両艦共チリに売却)。

1988年
シーハリアーF/A.2の1号機(FRS.1の改修)初飛行。

1989年
マルタ島での米ソ首脳会談で「冷戦終結」宣言(12月)。

1990年
23型フリゲイト一番艦「ノーフォーク」就役。
アップホルダー級通常型潜水艦一番艦「アップホルダー」就役。

イラク軍がクウェートに侵攻、湾岸危機勃発(8月~)。

70年代半ば以降、主に北大西洋での対潜能力充実に専心していた英海軍
でしたが、実際に直面した二度の危機はいずれも冷戦構造とは無関係の
領土奪回と地域紛争への介入だったのは皮肉な話です。
広大な大洋での原潜相手の高度な対潜能力は出る幕も無し。
財政難から切り捨てられた能力が実際には必要なものだった・・・勿論
対ソ抑止力の一環としての対潜能力はそれなりに有用だったとは思います
が・・・。

私如きが今更述べるまでもなく、フォークランド紛争については艦隊空母と
コマンド空母、巡洋艦を有する10年前の艦隊が健在であれば生起しなかった
のでは?と思わずにはおれません。
無い袖は振れないのはわかりますが、遠隔の地に海外領土を有し、且つその
領土返還を主張する国が近代的軍事力を備えているとなれば最小限の備えは
必要でしょうに。貧すれば鈍す・・・全てコレに尽きますかな。

フォークランドでの勝利とそれを踏まえての海軍力削減計画見直し、冷戦
緩和から終結へ、そしてポスト冷戦時代の新しい危機。
危機勃発当時1990年時点での英国海軍主要戦力は以下の通り。

戦略ミサイル原潜:4隻:レゾリューション級。後継の次期SSBN計画
進行中。

攻撃型原潜:15隻:トラファルガー級6隻、スイフトシュア級6隻、
チャーチル級2隻、ヴァリアント級1隻。

通常型潜:7隻:アップホルダー級1隻、オベロン級6隻。

軽空母:3隻:インヴィンシブル級3隻。

ミサイル駆逐艦:13隻:42型12隻、ブリストル。

フリゲイト:35隻:23型1隻、22型14隻、21型6隻、
リアンダー級14隻。

ドック型揚陸艦:2隻:フィアレス級。

ミサイル駆逐艦とフリゲイトは合計48隻で、81年に公表された削減計画の
数値目標50隻を割り込んでしまっています。
勿論質的には、戦後第一世代が完全に姿を消し、第二世代も漸減して第三
世代が戦力の中核となり、エリアディフェンスはシーダートSAMで統一され、
フリゲイトは全艦対潜ヘリを搭載し、対艦ミサイル防御力の高いシー・ウルフ
短SAMも35隻中20隻に搭載されるなど強化充実は間断なく進められては
おりますけれど・・・。
一方攻撃型原潜の増強は、対潜能力を海上哨戒機と潜水艦(特に原潜)で
強化するという81年の方針に即したものになっていますが、大陸棚など浅
海域での対潜戦の主役となるべき新型通常潜アップホルダー級は当初12隻
整備の予定が4隻に値切られてしまっています。
結局削減計画で見直されたのは軽空母とドック型揚陸艦の削減廃棄の
撤回のみ。
主要戦闘艦総数は79隻で満載排水量ベースで41万トン弱。
トンベースでは1980年比10%弱減になります。

英国海軍はこのように80年代も長期低落傾向が続きましたが、それと対照的
なのが海自戦力の充実ぶり。
1990年時点の勢力は下記の如し。

DDH: 4隻:しらね型2隻、はるな型2隻(FRAM済み)。
DDG: 6隻:はたかぜ型2隻、たちかぜ型3隻、あまつかぜ。
DD :32隻:あさぎり型7隻、はつゆき型12隻、みねぐも型3隻、
たかつき型4
隻(2隻FRAM済み)、やまぐも型6隻。
DE :16隻:あぶくま型2隻、ゆうばり型2隻、いしかり、ちくご型11隻。
SS :14隻:はるしお型1隻、ゆうしお型10隻、うずしお型3隻。

護衛艦総数は58隻で、対潜ヘリ搭載率約40%、アスロック搭載率約95%、
SAM搭載率約53%、SSM搭載率50%。
旧式艦の更新が順調に進んで量的に漸増、質的には大幅な向上が見られます。
無論当時は兎に角対潜能力の強化、それに付随する形で(西側スタンダード
仕様に忠実に従っただけですが)対空、対艦能力の向上であって、英海軍に
未だ健在な海外への戦力投射能力などは影も形も存在しませんしそもそも思考
の埒外なわけですが。
(海外への戦力投射即ち外交や国益追求のツールとしての軍事力など論じる
事さえ憚られる空気でしたからね当時は。一応政治学部でそんな話を少しした
だけで右翼!軍国ナショナリスト!戦争狂!のレッテルを貼られ、腐敗臭漂う
ユーロコミュニズムを説きレーニンの教えに還れ!と言えばカッコイイ!進歩的!
護憲平和派!と賞賛され先生の受けも良くAを付けてもらえる、まだまだそんな
時代でした・・・それってウチの学校だけ?)

おっと閑話休題。
単純に満載排水量ベースで言えば、海自の前述72隻は26万トン弱で、10年
前比で約50%強の増。対英国海軍比は約6割。
10年前の対英国海軍比は4割でしたから、英国海軍の勢力低下以上にこの10年間
の海自の増強ぶりが相当のペースだった事がよく理解できます。
もっとも、この時期にご主人様(米国)に誉められようと全力で頑張っちゃった
お陰で、財政難が深刻化する一方の今日その更新が間々ならないというツケが
回ってきてしまっているのは諸兄よくご存じの通り。

さて次回はミレニアム2000年英国海軍の回顧です。

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2011年2月 2日 (水)

1980年の英国海軍

前回エントリー「1970年の英国海軍」の続きで、今回は1980
年時点の英国海軍勢力を振り返ってみます。

まず1971~80年の英国海軍関係主要トピックスは下記の如し。

1971年
最後の中型空母「ハーミーズ」のコマンド空母化改装開始。
シンガポールを根拠地とした英国海軍唯一の海外派遣艦隊である極東
艦隊解散。

1972年
空母「イーグル」、コマンド空母「アルビオン」、対空巡洋艦「ライオン」退役。
対空巡洋艦「タイガー」、対潜ヘリ巡洋艦への改装を終え再就役。
イーグル退役に伴い、遷音速全天候艦戦シーヴィクセン退役。

1973年
空母「ハーミーズ」、コマンド空母への改装を終え再就役。
新型SAM・シーダートを装備した大型ミサイル駆逐艦「ブリストル」就役。
英国海軍第二世代の攻撃型原潜「スイフトシュア」級一番艦「スイフトシュア」
就役。

1974年
英国海軍初のオールガスタービン推進フリゲイト21型一番艦「アマゾン」就役。
最後の戦時計画型潜水艦「アンドリュー」(A級)退役。

1975年
シーダートSAMを装備する42型ミサイル駆逐艦一番艦「シェフィールド」
就役。

1976年
コマンド空母「ブルワーク」退役。

1978
英国海軍唯一の艦隊空母「アークロイヤル」、地中海ラストクルーズを終える
(11月)。
英国海軍最後のファントム飛行隊No.892sqnとバッカニア飛行隊No.
892sqn閉隊(12月)。
対潜ヘリ巡洋艦「タイガー」退役。
V/STOL戦闘攻撃機シーハリアー量産型1号機初飛行。

1979年
「アークロイヤル」退役(2月)。
22型フリゲイト一番艦「ブロードソード」就役。
コマンド空母「ブルワーク」再就役。
英国海軍最後の対潜ヘリ巡洋艦「ブレイク」退役。

1980年
軽空母「インヴィンシブル」就役。
初のシーハリアー実戦飛行隊No.800sqn編成される。


2隻の艦隊空母イーグルとアークロイヤルの退役、スエズ以東からの軍事力
撤退実行によって大英帝国時代の最後の残光も消え、ソビエト原潜を仮想敵
として対潜戦にその役割を完全にシフトした時代の英国海軍。
この10年間の変遷はまさにドラスティックの一言。
オールドネイビーの殻を脱ぎ捨て脱皮したニューネイビーはシーハリアーや
シーダートSAM、シーウルフ短SAM、スキージャンプ甲板を備えた軽空母や
強力な対潜フリゲイトや新型攻撃原潜と、より軽快なフットワークが身上でしょうか。
この辺りの割り切り方は我々日本人にはなかなか真似の出来ない英国人気質
の真骨頂であります、両国民共に基本は保守的で伝統墨守だと思うのですがね。

そんな英国海軍1980年時点での主要戦力は下記の通り。

戦略ミサイル原潜4隻:レゾソリューション級。

攻撃型原潜:12隻:スイフトシュア級6隻、チャーチル級3隻、
ヴァリアント級2隻、ドレッドノート。

ディーゼル潜:17隻:オベロン級13隻、ポーパス級4隻。

軽空母:2隻:インヴィンシブル、ハーミーズ。

コマンド空母:1隻:ブルワーク。

ウィキペディア英語版によると、1976年に退役し予備艦になっていたブル
ワークはペルーとの売却商談が進められたものの結局破談。
その後インヴィンシブルの就役遅延に伴いピンチヒッターとして1979年
初頭に再就役。インヴィンシブルが戦力化した1981年春に再び退役し予備
艦になったそうです。
南米といえばABC三大国と言われるブラジルとアルゼンチンは当時各1隻
ずつ英国製マジェスティック級軽空母を保有し、アルゼンチンとチリは米国製
ブルックリン級大型軽巡を保有。
それら三国に次ぐ南米第四の国・ペルーも、オランダ海軍から購入した一万
トン級巡洋艦アルミランテ・グラウとアギレを保有しておりましたが、更なる国威
発揚に役立つ大型軍艦が欲しかったのでしょうか?
しかし、ブルワークの売却商談が行なわれていたと思われる1976~78年当時の
ペルーは軍政下そして経済不振で、中古とはいえあのような大型軍艦を購入
する余裕は無かったと推察されますが・・・やはり国威発揚の先走りなんですかねぇ。
ただ純粋に想像してみれば、売却されペルー軍艦となったブルワークがどの
ような使われ方をされたのか実に興味深いのです。
素直にヘリコプタ強襲艦として周辺諸国への戦力投射の睨みを効かせたのか、
はたまたカタパルトとアレスティングギアの再装備を行い、米国から中古の
A-4を購入して空母として運用するつもりだったのか?
元々ブラジルやアルゼンチンの空母に比べてより艦隊空母に近い性能・大きさ
の艦ですから、実際に空母として運用を始めたら特に同じ太平洋岸のアルゼン
チンは焦ったかもしれませんね。

ミサイル駆逐艦:13隻:42型(バッチ1)7隻、ブリストル、カウンティ級5隻。

英国海軍初の本格的艦隊防空ミサイル艦として鳴り物入りでデビューしたカウ
ンティ級も、主兵装シースラグSAMの性能不足と乗組員の多さやCOSAGの
維持コストの高さなどから費用対効果に乏しく、国防予算削減に伴ってバッチ1
に属する艦が早くも3隻退役を余儀なくされています。

フリゲイト:49隻:22型(バッチ1)2隻、アマゾン級8隻、
リアンダー級26隻、ロスシー級8隻、トライバル級3隻、
ホイットビィ級2隻。

1950年代にはいくつかのタイプが同時に建造され任務の相互補完に当たっ
た英国海軍フリゲイト群も、リアンダー級において一応の収斂が成されて以後は
この路線で整備が進められております。
アマゾン級は抗堪性の低さや発達余裕の無さからリアンダー級ほどの評価は
得られませんでしたが、当時最新の22型はアマゾン級で不評だった点を克服
した高性能の対潜フリゲイトに仕上がっていました。

ドック型揚陸艦:2隻:フィアレス級。

この他に予備艦として対潜ヘリ巡洋艦タイガーとブレイクを維持。

この時点での英国海軍主要戦闘艦艇(空母、潜水艦、水上戦闘艦、ドック型
揚陸艦)は合計100隻で満載排水量は約45万トン。10年前と比較して16
~19隻、約7万トン減で、以外と削減幅が小さいのです。
艦隊空母や巡洋艦は姿を消してしまったものの、潜水艦は大して数を減ら
しておらずまた原潜増により排水量ベースではむしろ増加、駆逐艦/フリゲ
イトに関しては数こそ10隻以上減らしているものの新造艦は退役艦に比べ
て排水量がかなり大きく、こちらも排水量ベースでは大きな減少になっていな
いのが大きな要因でしょう。

さてこの時期の我が海自の勢力は下記の如し。

DDH:3隻:しらね型1隻、はるな型2隻。
DDG:3隻:たちかぜ型2隻、あまつかぜ。
アスロック搭載DD/DE:24隻:やまぐも型6隻、みねぐも型3隻、
たかつき型4隻、DEちくご型11隻。
アスロック非搭載DD/DE:16隻:あきづき型2隻、むらさめ型3隻、
あやなみ型7隻、DEいすず型4隻。
SS:13隻:涙滴型8隻(ゆうしお型1隻、うずしお型7隻)、在来船型
5隻(あさしお型4隻、おおしお)。

護衛艦はアスロック搭載率が6割を越え、大型対潜ヘリHSS-2ヘリを3機
搭載するDDHと涙滴型潜水艦は10年前には全く無かった新装備。
DDGはSAMシステムをターターDシステムにアップグレードして経空脅威
に対する対処能力が大幅に向上。
対空、対潜に限れば10年前と比べれて大きな進歩です。
英国海軍との比較でも、主要戦闘艦艇に限定すれば隻数で100対59、満載
トン数で約45万トン対約17万トン。
英国海軍は10年前には海自の概ね4倍以上の勢力でしたが、この時点では
2.5倍程度でその差は確実に縮まっているのが実感出来ます。
勿論これは単なる隻数と排水量ベースの話であって、攻撃型原潜とシーハリ
アー搭載軽空母及びコマンド空母/ドック型揚陸艦による戦力投射能力、
艦隊の長期の洋上展開を支える補給艦など後方支援艦艇はなお隔絶した
差があって、トータルでの彼我の戦闘実力に大差があるのは皆様ご存じの
通りです。

そして80年代に入ってすぐに打ち出された更なる海軍力削減方針、その只中
で生起したフォークランド紛争を経て冷戦終結を見た1990年は次回にて。

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2011年1月26日 (水)

1970年の英国海軍

前回エントリー「1960年の英国海軍」の続きで、今回は1970
年時点の英海軍勢力を振り返ってみます。

まず1960~70年の英国海軍関係主要トピックスは下記の如し。

1960年
英国海軍最後の戦艦「ヴァンガード」解体。

1961年
中型空母「アルビオン」のコマンド空母への改装開始(翌年完成)。
英国海軍最後の巡洋艦「ブレイク」就役。
西側初のガスタービン推進水上戦闘艦である81型フリゲイト一番艦
「アシャンティ」就役。

1962年
英国海軍初のミサイル駆逐艦(シー・スラグSAM搭載)カウンティ級一番艦
「デヴォンシャー」就役。

1963年
英国海軍最初の原潜「ドレッドノート」就役。
米国からのポラリスSLBM導入決定に伴い、英国海軍最初の戦略ミサイル原潜
「レゾリューション」級建造決定。
戦後計画の英国海軍水上戦闘艦最高傑作と名高い対潜フリゲイト「リアンダー」
級一番艦「リアンダー」就役。

1964年
艦戦シーヴィクセン後継機としてファントムFG.1の導入決定。
空母「イーグル」、1959年以来の大改装を終えて艦隊復帰。

1965年
中型空母「セントー」退役。
ドック型揚陸艦「フィアレス」級一番艦「フィアレス」就役。
対空巡洋艦「ブレイク」の対潜ヘリ巡洋艦への改装開始(69年完成)。
世界初のターボファンエンジン搭載戦闘用航空機・バッカニアS2の実戦部隊
発足、翌年には空母「ヴィクトリアス」に搭載されて実運用開始。

1966年
英労働党政権、スエズ以東からの軍事力撤退を決定。それに伴い通常型空母
全廃も決定。新空母CVA-01計画中止。

1967年
地中海艦隊廃止。
英国海軍初の戦略ミサイル原潜「レゾリューション」就役。
空母「アーク・ロイヤル」、ファントム運用の為の最後の改装を開始
(70年完成)。

1968年
最後の戦前計画型空母「ヴィクトリアス」退役。
対空巡洋艦「タイガー」の対潜ヘリ巡洋艦への改装開始(72年完成)。
戦略ミサイル原潜による戦略パトロール開始。

1970年
改装終了した空母「アーク・ロイヤル」でファントムFG.1の運用開始。

待望の高性能艦攻バッカニアの運用を開始し、超音速艦戦ファントムの導入を
決定し、期待の新型空母CVA-01型計画が進んでいたその僅か1~2年後に
空母全廃が決定されようとは、空軍が計画する超音速V/STOL戦闘機導入
の執拗な圧力を跳ね除けて、愛しの恋人ファントムをようやくゲットしたばかりの
海軍にとってまさに青天の霹靂。
その代わりに戦略核任務を空軍の戦略爆撃機から戦略ミサイル原潜へシフト
させたまではよかったものの、その運用にはとてつもないコストがかかり海軍
の通常戦備をますます圧迫する事になります。
その他水上戦闘艦艇では両用戦の確実性を担保するドック型揚陸艦2隻が
就役し、また戦時計画型の駆逐艦やフリゲイトが急速に姿を消す一方で、
新世代の旗手として英国国産のシースラグSAMを搭載したカウンティ級ミサ
イル駆逐艦とホイットビィ級以来の戦後型対潜フリゲイトの完成形であるリア
ンダー級が艦隊に加わります。
これにより戦力の質的な向上は相応に図られておりますけれど、量的減勢
はそれを上回る規模で情け容赦なく実行されます・・・。

そんな1970年時点での英国海軍主要戦力は下記の通り。
米ソ両国の概数も比較の為に記述しております。
ほんの30年前は対等であった米海軍には大差をつけられ、かつては全く考慮
の外であったソ連海軍に対しても艦隊航空兵力以外は圧倒され、海軍力は
世界第三位に転落。

戦略ミサイル原潜:4隻:レゾリューション級4隻。
潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)定数64発。

1970年末時点の米ソが保有する戦略ミサイル原潜は下記の如し。
米国:41隻:ラファイエット級31隻、イーサン・アレン級5隻、
ジョージ・ワシントン級5隻。SLBM定数656発。
ソ連:25隻:ヤンキー級17隻、ホテル級7隻。
他にホテル級1隻が大改装中。
SLBM定数293発、但し他に通常動力型戦略ミサイル潜ゴルフ級
22隻とズールー改型6隻を保有(SLBM定数78発?)。

攻撃型原潜:4隻:チャーチル級1隻、ヴァリアント級2隻、
ドレッドノート。

1970年末時点での米ソ攻撃型及び巡航ミサイル原潜は下記の如し。
米国:47隻:スタージョン級20隻、ナーワル、タリビー、パーミット級
13隻、ハリバット、スキップジャック級5隻、スケート級4隻、
シーウルフ、ノーチラス。
スタージョン級、ナーワル、タリビー、パーミット級は対潜核兵器サブ
ロックの運用が可能。
ソ連:61隻
攻撃型18隻:ヴィクターⅠ級7隻、ノヴェンバー級11隻。
巡航ミサイル型:43隻:チャーリーⅠ級7隻、パパ級1隻
、エコーⅡ級29隻、エコーⅠ型(659型)6隻。

戦術原潜への核装備が常態化している米ソに比べ、英国は依然として通常
装備のみに留まっておりました。

ディーゼル潜:27隻:戦後計画艦21隻(オベロン級13隻、
ポーパス級8隻)
戦時計画艦6隻(A級6隻)

艦隊空母:3隻:ハーミーズ、アーク・ロイヤル、イーグル。

前述のようにアーク・ロイヤルは大改装を終えて現役復帰、早速ファントム
FG.1を搭載して地中海クルーズに出発しています。
その一方で最後の中型空母ハーミーズは翌年からコマンド空母への改装
工事に入り、イーグルはファントムの本格運用能力を与えられぬまま2年
後に退役する運命です。
またウィキペディア英語版によると、1960年代後半にオーストラリア
海軍が空母「メルボルン」(満載排水量2万t)の後継艦としてハーミーズ
取得を検討し、A-4攻撃機とS-2対潜機の着艦訓練を行なったが、
コスト高に付き見送ったそうです。
「世界の傑作機A-4スカイホーク」によると、オーストラリア海軍にA-4
Gが引き渡されたのは67年7~12月との事なので、ハーミーズで着艦
訓練を行なったのは67年末から68年初めあたりでしょうか?
しかしメルボルンは67年末から米国で近代化改装を実施しているので、
時期的に少々合点が行きません。
ハーミーズ取得見送りを受けての改装なら納得なのですけれど、それが
恐らくまだ正式決定を見ないうちの改装着手というのは?
しかも改装場所はオーストラリア国内ではなく米国なので、相当以前に
決定された事だと思うのですが・・・。
オーストラリア海軍には当時、元空母の輸送艦シドニーが在役していたので
それの代艦扱いでハーミーズを取得し、近代化改修後のメルボルンと共に
ジェット母艦2隻体制に移行という話ではないようですし・・・。
それともA-4とS-2のハーミーズでの訓練は、ハーミーズ取得とは直接
関係無い話だったのでしょうか?
メルボルンの現役復帰は1969年初頭で、それまではせっかくのA-4も
S-2も母艦上での訓練を実施出来ませんから、極東艦隊所属のハーミーズ
で訓練を行なわせてもらっていたという推察も出来ます。
当時米海軍空母はベトナムツアーにかかりきりで、同盟国の艦載機訓練を
請け負うだけの余裕は無かったでしょうし、消去法で行けばそれが可能なの
はハーミーズしかありません。

さて1970年末時点での米海軍現役空母は下記の如し。
攻撃空母:15隻:
ファントム運用艦12隻:エンタープライズ、キティホーク級4隻、
フォレスタル級4隻、ミッドウェイ級3隻。
ファントム運用不可艦3隻:エセックス級3隻(オリスカニー、ボノム・
リシャール、ハンコック)。
対潜空母:4隻:エセックス級4隻(イントレピッド、ワスプ、タイコン
デロガ、シャングリラ)。
最早英国とは質量共に隔絶した強力無比の海上航空戦力です。

コマンド空母:2隻:アルビオン、ブルワーク。

ドック型揚陸艦:2隻:フィアレス、イントレピッド。

巡洋艦:2隻:対潜ヘリ巡ブレイク、対空巡洋艦ライオン。タイガーは
対潜ヘリ巡への改装中。

1970年末時点の米ソ巡洋艦/ミサイルフリゲイトは下記の如し。
米国:30隻:
戦後計画艦:原子力ミサイル巡洋艦/フリゲイト3隻(ロング・ビーチ、
ベインブリッジ、トラクスタン)、ミサイルフリゲイト(後にミサイル巡洋艦
に類別変更)18隻(ベルナップ級9隻、レイヒ級9隻)。
戦時計画艦:ミサイル巡洋艦7隻(アルバニー級3隻、ガルベストン級
2隻、プロビデンス級2隻)、重巡洋艦2隻(デ・モイン級1隻、ボルティ
モア級1隻)。
ソ連:22隻:
対潜ヘリ巡洋艦モスクワ級2隻。対潜ミサイル巡洋艦6隻:クレスタⅡ級
2隻、クレスタⅠ級4隻。対艦ミサイル巡洋艦キンダ級4隻。
軽巡洋艦10隻(スヴェルドロフ級7隻、チャパエフ級2隻、キーロフ級1隻)。

大型対潜ヘリを搭載するブレイクは、イタリア海軍の対潜ヘリ巡洋艦ヴィット
リオ・ヴェネトと並ぶユニークな存在でしたが、最初からヘリ運用を主眼に
して設計されまた艦隊防空用にテリアSAMを装備するヴェネトに比べる
と、やはり大きさの割に無駄の多い艦のように思えます、元々の出自が
伝統的な砲戦用軽巡なので仕方が無い事ではありますが・・・。

駆逐艦:10隻?:ミサイル駆逐艦カウンティ級8隻、戦時計画型駆逐艦
後期バトル級2隻?

1970年末時点での米海軍保有ミサイル駆逐艦/フリゲイトは下記の如し。
テリアSAM搭載艦10隻:クーンツ級(DLG、後にミサイル駆逐艦に
類別変更)。
ターターSAM搭載艦29隻:チャールズ・F・アダムス級23隻、ディケイ
ター級4隻、ミッチャー級2隻。
SAMシステムの完成度は英海軍のシースラグよりも米海軍のテリアや
ターターが明らかに上なので、その艦隊防空力は隻数以上の差が
あります。

フリゲイト:65隻前後:リアンダー級23隻(対潜ヘリ搭載)、ロスシー
級9隻(近代化改装により対潜ヘリ運用能力逐次追加中)、トライバル級
7隻(対潜ヘリ搭載)、ソールズベリ級4隻、レパード級4隻、ブラックウッド
級9~11隻、ホイットビィ級6隻、Type15型少なくとも1隻。

小型水上戦闘艦への有人ヘリ搭載に関しては、英国海軍は世界最先進の水準
にありました。
米海軍の護衛艦(後にフリゲイトに類別)やFRAM駆逐艦は無人対潜ヘリ
DASH運用を前提にしていて、しかもそのDASHは69年に計画中止。
その代替としてLAMPS計画がスタートして駆逐艦やフリゲイトへの多用
途ヘリ搭載がようやく開始される事になります。
策士策に溺れた格好のDASHに比べ、英国海軍のワスプ・ヘリコプターを使用
するMATCHシステムは堅実。
世界をリードする数々の革新的な技術や装備を生み出す一方で、慎重に過ぎる
姿勢も併せ持つ英国海軍ですが、その慎重さと技術の身の丈が合っていたから
こその名を捨てて実を取った結果と言えましょうか。

一方、この時点の我が海自の戦力は下記の如し。
護衛艦:38隻:
ターターSAM・アスロック搭載艦:DDGあまつかぜ。
アスロック・DASH搭載艦:DDAたかつき型4隻。
アスロック搭載艦:DDKやまぐも型3隻。
DASH搭載艦:DDKみねぐも型3隻。
いずれも未搭載:国産DD14隻(あきづき型2隻、むらさめ型3隻、
あやなみ型7隻、はるかぜ型2隻)。国産DE7隻(いすず型4隻、
いかづち型2隻、あけぼの)、
貸与DD2隻(ありあけ型)、貸与DD/PF3隻(あさひ型2隻、
くす型1隻)、旧帝国海軍艦1隻(わかば)。
ようやく一線級の対潜装備が米国から提供されて、10年前の古色蒼然と
した姿から近代海軍へ脱皮しつつあります。
しかし対空ミサイル艦はあまつかぜ唯一隻、それに次ぐ対空火力のMk
42五インチ速射砲を装備するのはたかつき型のみ。
残りの艦は亜音速機の攻撃に対してさえ自衛戦闘すらおぼつかない有様で、
これはこの10年後においても抜本的な解決をみずなのでした。
洋上航空兵力を抜きにしても、まだまだ英海軍水上戦闘艦艇との差は大きく、
その英国海軍すら遥かに凌ぐ米海軍のそれは海自護衛艦とどれ程の差が
あった事か・・・。

潜水艦:10隻:
あさしお型4隻、おおしお、なつしお型2隻、はやしお型2隻、
おやしお。

洋上哨戒が可能な大きさと装備を持つあさしお型の就役で、ようやく潜水艦
の実戦的運用に目鼻が付き始めた状況でした。

ここまで書いたら200行超え! 本日も紙面が尽きてしまいました・・・。
1980年以降はまた次回に。

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2011年1月19日 (水)

1960年の英国海軍

前回のエントリー「破断界を越えつつあるか英国海軍?」に関連して
自己資料的に。

英国海軍は戦後衰退削減の一途を辿っているのは皆様ご承知と存じますが、
五十年前に遡ってその勢力の消長を回顧すべく、手持ちの資料に加え
英語サイトを見て参考にしつつ、海自と比較しながら纏めてみました。
一応現役艦のみをカウントしておりますが、甚だ不正確であり一応の目安として
お考えください。

1960年(昭和35年)
この時点の英国海軍は本国艦隊に加えて地中海艦隊と極東艦隊を保持し、水上
艦隊は依然として米海軍に次ぐ世界第二位の勢力を誇っておりました。
艦隊の主力を成す戦時計画艦に加えて戦後計画の新世代フリゲイトが就役を
開始し、その戦力の質量共に当然の事ながら未だ揺籃期と言える我が海自を
遥かに凌ぐものでしたが、米海軍との比較では空母艦載機、対空ミサイル艦
や原潜の分野において劣弱ぶりが顕著であり、斜陽の二文字を痛切に感じさせ
ずにはおれません・・・。

艦隊空母:5隻:
ハーミーズ(28,000t)、セントー(24,000t)、アルビオン(24,0
00t)、アーク・ロイヤル(43,060t)、ヴィクトリアス(35,500t)。
他にイーグルが近代化改装中(1964年復帰)。
大改装により面目を一新した戦前計画のヴィクトリアス以外はいずれも戦時
計画艦であり、米海軍ミッドウェイ級に準ずる第一級の能力を持っているの
はアークロイヤルと改装中のイーグルのみです。
ジェット機先進国でありながら、戦後のジェット機発達のペースを誤断して
セントー他の中型空母建造を継続した結果、これら空母が就役後程無くして
新型機の運用に困難をきたしたのは皆様ご承知のところであります。
艦載機は艦戦が双発複座のシーヴィクセンと亜音速のシーホーク及び
シーヴェノム、昼間迎撃と攻撃(核を含む)にシミター、AEW機にターボ
プロップ機のガネットと米国から供与されたAEW型スカイレイダー。
シーヴィクセンもシミターも遷音速機で、またシーヴィクセンが運用する
AAMは赤外線誘導のファイアストリークであり全天候性に欠けます。
超音速戦闘機F8UやSARHのスパローAAMを運用する全天候戦闘機
F3Hを擁する米海軍空母機群とは一世代遅れておりました。
なおアルビオンは翌年からコマンド空母へ改装されます(1962年再就役)。

コマンド空母:1隻:
ブルワーク(26,200t)。
英国海兵隊の強襲揚陸能力を画期的に向上させたのがコマンド空母。
能力の限界に達した中型空母の廃物利用的産物ではあるものの、転んでも
タダでは起きない英国流の真髄発揮であります。
ヘリコプターによる立体強襲能力獲得は米海軍と比べてもさほど遅れを取っ
ておりませんが、その動機は正規戦を主眼とした米海軍とは異なり、旧植民地
の紛争介入能力確保というところでしょうか?。

巡洋艦:2隻:
タイガー(1959年就役)、ライオン(1960年就役)。
他にブレイクが英国海軍最後の巡洋艦として艤装中(1961年就役)。
世界中に植民地を抱える「日の沈まぬ」大英帝国の海外発展の尖兵であっ
た巡洋艦も、戦後の植民地喪失と共にその数を打ち減らしてしまい、この
一万トン型軽巡洋艦タイガー級が最後になりました。
就役年を見ると新型艦のように思えますが、実際は戦時計画に基づき起工
しながら永らく放置され、新型の6インチ両用砲実用化で対空巡洋艦として
ようやく陽の目を見た姉妹なのです。
なお当時米海軍は対空ミサイル艦の整備を巡洋艦の改装と新型艦建造の
二本柱で急速に進めていて、英国海軍とはこれまた一世代差をつけておりま
した・・・。

駆逐艦:38隻前後?
デアリング級8隻、ウェポン級4隻、後期バトル級6隻、バトル級5隻、
C級15隻?。
C級については英語サイトでも退役年が全く解らなかった為、世界の艦船別冊
「イギリス駆逐艦史」の各艦解体年からの推定です。従って完全なる私見であり
ますのであくまで目安程度にお考えください。
駆逐艦については全艦戦時計画型で、いずれの艦も艦型は小型に過ぎて装備
の近代化を受け入れる余地がありません。
C級は高速フリゲイトに改造して活用の道も考えられるのですが、それ以前
の戦時建造型駆逐艦を改造後に着手した新型対潜フリゲイト建造と時期的
に重なってしまい、予算上の問題で着手に至らず・・・だったのでしょうか?

フリゲイト:70隻前後。
戦後計画艦:29隻:
ロスシー級(2,600t)3隻、ソールズベリ級(2,350t)4隻、
レパード級(2,520t)4隻、ブラックウッド級(1,535t)12隻、
ホイットビィ級(2,600t)6隻。
50年代に計画着手された完全な戦後世代のフリゲイトで、用途に応じて
多様なタイプが建造されました。
対潜高性能型に類別されるのがロスシー、ホイットビィの各級、対空型が
レパード級、対空警戒型がソールズベリ級、戦時量産を考慮した安価な
対潜型がブラックウッド級。
この中で今日の多用途フリゲイトのルーツとなったのがロスシー/ホイット
ビィ級になります。
戦時建造型駆逐艦改造艦:33隻:
タイプ15型23隻、タイプ16型10隻。
戦時中に大量建造された中型駆逐艦群を1950年代前半から中盤にかけて
対潜用に改造したもので、艦型装備を一変する大改造を受けた15型と予算
上の問題から装備の近代化に留めた16型に大別されます。
基準排水量1,500~1,700tの伝統的な任務・艦型の駆逐艦を、求められ
る性能が異なる対潜艦に改造するのは相当に無理のある事と思われ、費用
対効果はあまり芳しくなかったのではと推察されますが・・・。
戦後のソ連海軍潜水艦大増強に直面し、既存の駆逐艦の対潜能力向上に躍起
になったのは米海軍も同じでしたけれど、彼らは英国海軍のように艦型を一変
させるような大改造までは行ないませんでした。
費用対効果を重視するある意味においての堅実さの表れのようであります。
それに比べてタイプ15型の些かやり過ぎと思われる大改造後の姿は、
英国海軍伝統の進取の気概未だ健在と申せましょうか。
・・・しかしそれでいて空母の艦橋構造物は米空母に比べて実にクラシカル
だったりしますから・・・、英国人の発想ってよくワカラン!
しかし私は彼らのそういう部分が大好きでもあります(笑)。
大戦型フリゲイト:少なくとも8隻:
ベイ級2隻、ロック級少なくとも6隻。
原型のリバー級は1950年代末までに英国海軍から退役し、改良型のベイ級
とロック級が主にペルシャ湾に派遣されて英国の中東における権益保護に
当っておりました。
また当時の中東は英国の保護国もまたまだ多く、この地域における安全保障
には米国よりも英国が深くコミットメントしていたのです。

潜水艦:41隻前後:
戦後計画艦:7隻:オベロン級1隻、ポーパス級6隻。
戦時計画艦:34隻前後:A級15隻、T級19隻前後。
この時期、米海軍は既に10隻以上の各種原潜を保有し、ソ連も最初の
SSNノヴェンバー級の就役が始まっておりましたが、英国は戦時計画艦が
まだまだ主力。
勿論水中高速型への改造を実施してはおりますけれど・・・。

一方この頃の海自はというと・・・
国産護衛艦:18隻:
DD:あきづき型2隻、むらさめ型3隻、あやなみ型7隻、
はるかぜ型2隻。
DE:いかづち型2隻、あけぼの、わかば(旧帝国海軍丁型駆逐艦)。
供貸与護衛艦:24隻:
DD:ありあけ型2隻、あさかぜ型2隻。
DE:あさひ型2隻。
PF:くす型18隻。
対潜最重視を標榜しながら、有効な対潜兵器はあきづき型に搭載された
ウエポン・アルファのみ。
あやなみ型計画時に導入を検討した英国製スキッドは米国の反対で
ボツに。
英国海軍の対潜攻撃兵器は当時最新鋭のリンボーがHigh、スキッド
がLowの位置付けでした。英海軍では対潜が二義的な艦に搭載する
スキッドすら装備出来ない海自護衛艦の当時の対潜能力が察せられ
ます・・・
対空兵装もジェット機に対抗出来るレベルではなく、まだまだ全てにおい
て発展途上、第二次大戦の面影を色濃く残す陣容そして装備でありま
した。

潜水艦:国産艦1隻(おやしお)、貸与艦1隻(くろしお)。
たった2隻では水上部隊の対潜訓練標的と要員訓練で目一杯の状況で、
哨戒任務などまだまだ先の話でありました。

本来は現在に至るまで十年毎に書き連ねていくつもりだったのですが、
ここまでで早や140行! 相当に端折って書いてるのにこんな行数だ
もんなぁ(ニガワラ)。
紙面も尽きてしまいましたので1970年以降についてはまた次回。

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2011年1月12日 (水)

破断界を越えつつあるか英国海軍?

些か古い話で恐縮なのですが、次期中期防のエントリーがこのところ
続いた事でその関連で備忘録的に・・・。

昨年10月、英国政府は”SDSR”(Strategic Defenceand security Review”)を発表し、今後の英国国防政策と戦力構成を明らかにしました。
英国版防衛計画大綱と言えましょうか。
その中身は昨今の深刻な経済財政状態を踏まえての、国防力の更なるリストラ方針。
国家安全保障に必要不可欠な核戦力や国益追求、国際貢献の尖兵となる通常戦力については相応に維持しつつ、それ以外の特に冷戦型重装備をバッサリと切り捨てまた例え必要な戦力であっても、優先順位が相対的に低下しているものについてはあえて切り捨ても辞さないという極めてシビアな観点に立脚したものと申せましょう。
英国国防予算は2010-11年で約367億ポンド(1ポンド=130円として約4兆7700億円)。
英国政府は今後4年間で国防予算を8%削減する方針との事で、この額から8%削減となれば、2015年のそれは4兆3900億円程になるのでしょう。
(日本の次期中期防総額は23兆4900億円で、年平均では約4兆7000億円程)
また兵力は三軍合計で現在の17万5千人から15万8千人に削減。
国防省職員は現在の8万5000人から2万5000人に削減(公務員全体では4年間で49万人削減!)だそうで、この辺りの人件費削減は歳出削減にかなりの効果がありそうです。
日本ではとても考えられない削減規模であります。
しかし国防はまだ手厚く保護されているほうで、社会保障は文字通りバッサリ。
今後4年間で社会保障関連歳出を約180億ポンド(2兆3900億円)を削減する方針だそうで。
我が国ではこのような事を議論の俎上に乗せただけで政権は即死、次期総選挙での下野は確実でしょうね。

さて私にとって最も興味深い英国海軍の今後について・・・
英国海軍の戦力削減は最早量的に破断界を越えつつあるのかなぁと、一世紀前の世界最強海軍ロイヤルネイビーを振り返って見ると、実に感慨深いものがあります・・・。

前述PDF22ページによれば、”Future Force 2020”
における英国海軍の戦力構成は、下記の如し。

戦略ミサイル原潜 4隻:バンガード級。
後継についての決定は次期総選挙(2016年)後へ五年間先送り。

攻撃型原潜7隻:アスチュート級。

空母1隻:クイーンエリザベス級1隻。
二番艦の処遇は未定。搭載機はF-35BからCに変更し、それに伴う艦の改設計で就役は2020年に遅延。

水上戦闘艦19隻:45型ミサイル駆逐艦6隻、
23型フリゲイト13隻。
2020年以降は可能な限り速やかに23型フリゲイトを26型フリゲイトに更新。

また、英国空軍が運用する海上哨戒機は、次期哨戒機ニムロッドMRA4計画が「キャンセル」という報道もあって、ウィキペディアのニムロッドのページの参照項目のリンク先にあった9機調達とどちらが正しいのか気になるところです。
計画自体キャンセルとなると、英国はその周辺海域での効果的な航空対潜/洋上哨戒能力を失う事になります。
短中期的にロシア原潜が英国(及びEU/NATO諸国)の脅威になる事はあまり考えられませんけれど、洋上でのテロや海洋権益を巡る争いについてはその可能性は常に考慮しておく必要があり、海上哨戒機全廃は空母や水上戦闘艦削減以上に英国の安全保障に
とって重大な結果を招きかねないと思うのですが・・・。
英国は我が国の海保や米国の沿岸警備隊のような組織を持っておらず、海上警備哨戒においても軍がその責を負っていますからなおの事です。

さて良くも悪くも万事スローモーな日本とは異なり、決定後の行動が素早いのが英国流。
保有する軽空母3隻のうち、モスボール中で本来新型空母の一番艦完成まで維持する筈だった「インヴィンシブル」はオークションにかけられ、「アークロイヤル」は昨年末に早くも解役。
「イラストリアス」は2014年の退役が決定し、また搭載する英国空軍ハリアーが昨月退役した事で、今後3年間は単なるヘリ母艦として運用される事に。
水上戦闘艦も4隻保有する22型フリゲイトバッチ3が今年春までに退役して、フリゲイトは23型13隻のみに。

日本的な考えでは、要員確保と技量維持の観点からも新型空母「クイーンエリザベス」完成までは、少なくとも軽空母一隻を現役に留め置くのが常道。
一度削減された人員を新空母完成に合わせて再び確保というのは、一度削減が実行されたらそれが既成事実化されて回復が困難な我が国では考えられない事です。
まぁ、現役に置いても肝心の搭載する戦闘機(ハリアー)も無く飛ばすのは哨戒ヘリのみであれば、英国の直面する当面の軍事的脅威(対テロ戦)には役に立たず維持にカネがかかるだけで無駄という割り切りもあったで
あろうと推察は致します。
一方でヘリコプター揚陸艦「オーシャン」は維持されるので、新型空母はこの艦と直接交代する事として新空母に必要な最低限の要員を確保、就役後はコマンドー部隊の輸送任務を兼ねるのかもしれません。
最高級のハイブリッド・キャリアーと言えましょうか。
また新型空母二番艦は海外売却の他に「オーシャン」後継としてヘリコプター揚陸艦に充てるという話もあるものの、あれだけの巨艦をコマンドー母艦専任というのは俄かには信じ難い構想なのであります・・・。
米海兵隊のような重装備ならいざ知らず、軽快軽量を旨とする英コマンドーにはちょっと宝の持ち腐れ感あり。

・・・しかし近年の英国の国防政策の実際を見るに、この”Future Force 2020”もどこまで実現できるのやら。
新型空母の運用開始と時を同じくして、パンガード級SSBN後継計画発動と26型フリゲイトの調達開始が重なるのです。
そして英国海軍の近年の調達計画で予定通り事が運んだ試しはほとんどありません。
空母は当初2隻からとりあえず1隻に。
45型ミサイル駆逐艦は当初12隻建造予定が8隻になり最終的に6隻に切り下げ。
アスチュート級は当初スイフトシュア級後継の筈だったのがいつの間にやらトラファルガー級の後継へ。
そういった過去を踏まえた私見では、バンガード級後継の新型SSBN建造(英国が核を手放すオプションは考え難い)の引き換えに26型フリゲートは建造隻数を8隻程度に切り下げて性能も妥協、空母は運用経費に耐え切れずに就役後十年経たずに海外売却・・・?。

色々言われている我が国の次期中期防ですが、勿論英国とでは直面する脅威の質と量と現実性が違うとはいえ、まだ「頑張っている」ようにも思えます。
もっとも五年後の次々期中期防策定時には防衛計画大綱が再度見直され、BMD(英国の核戦力に相当する国家安全保障の根幹)以外の戦力大幅削減という英国並みにドラスティックな話になっているやもしれませんね。

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