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2018年4月23日 (月)

航空母艦サン・パウロ退役を遅まきながら知りました

備忘録的に・・・
去る2月14日、ブラジル海軍の保有する唯一の航空母艦「サン・パウロ」が退役していたそうです。
私はこのところ、軍事関連は日露戦争以前の軍艦や装甲、兵器、戦術に興味の焦点が移ってしまっていて、現代の軍事事情にはホントに疎くなってしまっているのです。
なのでこの「サン・パウロ」退役の話も、先日5ちゃんの某スレで知って「えー!?」と思わずモニターの前で声を出してしまいました。

さてこの空母「サン・パウロ」、元々はフランス海軍が最初から空母として計画建造完成した初めてのクラス「クレマンソー」級の2番艦「フォッシュ」として1963年7月に完成。
フランス海軍の空母はそれまでイギリスから購入した軽空母「アロマンシュ」唯一隻。
小型の「アロマンシュ」(満載排水量約1万8千トン)が運用できる艦載機は、近代化改装を経てもなお亜音速のアキロン戦闘機(イギリス製シー・ヴェノム夜間戦闘機)をようやくというレベルでしたので、射出重量最大約23トンを誇るイギリス製BS5型蒸気カタパルトを装備する、超音速戦闘機の運用が可能な満載排水量三万トンの本物の中型ジェット母艦である「クレマンソー」と「フォッシュ」の二隻を手にしたことによってフランス海軍の洋上航空戦力は飛躍的に能力を向上し、実効的な洋上航空戦力の主柱としてまた戦艦「リシリュー」「ジャン・バール」に代わる大国フランスの威信の象徴として君臨してきたのです。
フランスは空母二隻体制を維持し続ける予定で、一番艦「クレマンソー」の後継艦として中型原子力空母「シャルル・ド・ゴール」(2001年就役、満載排水量約四万トン)を完成。
「フォッシュ」も当初は「シャルル・ド・ゴール」級二番艦で置き換えられる予定になっていました。
しかし中型とはいえカタパルト装備の原子力空母建造はフランスの国力にとってかなりの負担で、冷戦終結、ソ連崩壊後はいつしか二番艦建造も立ち消え。
建前として空母二隻体制は未だ謳っているようですが、現実にはその可能性はほぼ無いでしょう。
かくて後継艦を得る目処が全く立たないまま、「フォッシュ」はブラジルへ売却されることになります。
時に2000年11月、「フォッシュ」はブラジル共和国の威信の象徴たる空母「サン・パウロ」に転身して、第二の人生を歩むことになったのです。

さてブラジルという国は19世紀から周辺の地域大国であるアルゼンチン、チリと南米最強国としての威信を競い合っておりまして、かつては戦艦をそれぞれ保有していました。
第一次世界大戦直前の時期にはブラジルがド級戦艦をイギリスに発注すると、それに脊髄反射したアルゼンチンがアメリカにド級戦艦を発注、ならば我もとチリがイギリスに超ド級戦艦を発注という具合。
第二次世界大戦後は旧式化した戦艦の代わりに、アメリカが第二次大戦勃発直前に完成させた一万トン級軽巡洋艦「ブルックリン」級をこの南米三カ国に供与。
ブラジルとアルゼンチンはそれではまだ足りないとばかりに、イギリス製の軽空母を購入しています。
すなわちブラジル海軍の「ミナス・ジェライス」(1960年就役、満載排水量約二万トン)とアルゼンチン海軍の「インデペンデンシア」(1959年就役、満載排水量約一万八千トン)がそれで、双方共にジェット機の運用能力は持たず、「ミナス・ジェライス」はS-2トラッカー対潜哨戒機を搭載した対潜母艦として、「インデペンデンシア」はS-2に加えてレシプロの戦闘爆撃機F4Uを搭載する軽攻撃/対潜母艦として運用されていました。
アルゼンチン海軍はその後、オランダの国防費削減と国防政策変更、さらに機関室の火災によるダメージもあって早期退役の運命にあった軽空母「カレル・ドールマン」を購入し、「ベインティシンコ・デ・マヨ」(満載排水量約二万トン)と命名して「インデペンデンシア」に代わるアルゼンチンの威信の象徴に据えます。
「カレル・ドールマン」改め「ベインティシンコ・デ・マヨ」も元々はイギリス製の軽空母ですが、こちらは蒸気カタパルトとアングルドデッキ化の本格的な近代化改装をオランダ艦時代に実施済みで、アメリカ製A-4スカイホーク攻撃機を搭載する軽攻撃空母としてブラジル海軍の「ミナス・ジェライス」を完全に凌駕する南米諸海軍中最強の存在になったのです。
1982年に生起したフォークランド紛争でも、フォークランド奪還のために遠征してきたイギリス艦隊を迎撃しようとA-4攻撃機を爆装待機させていますが、機関不調の上に当日は風速が足りずに発艦不可能で出撃が叶わず、巡洋艦「ヘネラル・ベルグラノ」がイギリス海軍の攻撃原潜「コンカラー」に撃沈されたこともあり、危険を避けるためにアルゼンチン本土に退却して以後作戦の機会を得ませんでした。
その後「ベインティシンコ・デ・マヨ」はアルゼンチンの経済破綻もあって後継を得ることが出来ず、1997年に退役を余儀なくされています。
その結果、かつて南米で覇を競った所謂「ABC三カ国」で国家の威信としての大型艦艇を保有するのはブラジルのみになりました。
ちなみにチリは空母を保有することはなく、民主化後は切り札である銅の輸出で国富を上げて、陸ではドイツから余剰のレオパルド1、レオパルド2主力戦車を相次いで導入、海では大物を欲張らずに堅実に英蘭両国の余剰フリゲート艦を導入、空はアメリカから中古ではなく新品のF-16戦闘機を導入という具合に、極めて地に足が着いた堅実かつ強力な軍備の充実を行っています。

アルゼンチンが空母保有を事実上断念したために、この地域最大の水上艦の座に躍り出たブラジル海軍の「ミナス・ジェライス」ですが、元々は第二次大戦後半にイギリス海軍が建造を開始した老朽軽空母。
対地攻撃力も洋上防空能力も持たず、対潜用とは言ってもとても原潜に対抗できるような装備ではありません。
そんなところに降って湧いたフランス海軍の「フォッシュ」早期退役話です。
新型空母は欲しいが国内建造は困難だし適当な出物もないし・・・と悩んでいたであろうブラジルとしては速攻飛びつくのも当然の話だったでしょう。
グズグズしていると中国にかすめ取られませんしね。
かくて「フォッシュ」は「サン・パウロ」となり、「ミナス・ジェライス」に代わる南米の大国ブラジルの新たな威信の象徴になったのです。

こうしてブラジル海軍はその歴史上初めて本格的な洋上航空戦闘能力を獲得するに至ったのですけれど、肝心の艦載機は湾岸戦争時にクウェート空軍がフランス製のミラージュF.1戦闘機と共に主力と頼んでいたアメリカ製のA-4KU攻撃機。
アメリカ海兵隊用の最終量産型であるM型の準同型機なので、レーザー誘導爆弾の運用能力は持っていたかもしれませんが、近接航空支援用の軽攻撃機ゆえに空対空レーダーは持たず対艦ミサイルの運用能力もありません。
戦力としてはアルゼンチンの空母が運用していたA-4と大きな差は無く、今日の海空戦を戦うには非常に不安なレベルだったのです。
出来れば「フォッシュ」購入と同時に、同艦で運用していたシュペル・エタンダール攻撃機を一緒に買うべきでしたけれど、予算の問題からかそれは出来ず仕舞。
シュペル・エタンダールもA-4同様に亜音速の軽攻撃機ですが、こちらはエグゾセ対艦ミサイルを運用可能ですから実質的な戦力はA-4KUより上なのですが・・・。
またこの空母が搭載するイギリス製のBS5カタパルトは、前述したように就役時点で最大約23トンの航空機を射出運用する能力を持っています。
イギリス海軍では空母「イーグル」と「アーク・ロイヤル」にこのカタバルトを搭載して、高性能の艦上攻撃機バッカニア、さらに「アーク・ロイヤル」ではファントムFG.1も運用していました。
つまり「サン・パウロ」は必要な改装を実施すれば、重量級の戦闘攻撃機も運用可能な潜在性を秘めていたのです。
実際、「フォッシュ」は早期退役していなければ最大離陸重量約22トンのラファールM戦闘機を運用する計画でした。
アメリカから中古のF/A-18戦闘攻撃機か若しくはフランスからラファールMを購入し、それに合わせて近代化改装を実施すれば、空母「サン・パウロ」は世界のどこに出しても恥ずかしくない、強力なジェット母艦になれたはずなのですが、その結末は実にあっさりとした退役です。

2013年暮れにブラジル空軍が次期主力戦闘機としてスウェーデン製の「グリペンNG」戦闘機を導入すると決したニュースを聞いた時、私はてっきりブラジル海軍も空母用として所謂「シーグリペン」を採用するつもりなのではと思ったものです。
「シー・グリペン」なら最大離陸重量はおそらく18トン弱程度になるはずで、空母のカタバルト射出重量は余裕でクリア、またF/A-18やラファールMよりも小柄なのも狭い飛行甲板上での取り回しにも好都合です。
しかしそんな夢想もこれで終わり。
ブラジル海軍としては、空母の優先順位は三の次のようです。
優先順位その一はフランスの支援で建造するという噂の攻撃原潜、その二はイギリスから購入した22型フリゲイト以外は旧態化した水上戦闘艦の近代化、特にエリアディフェンス能力を備えたミサイル防空艦はぜひ欲しいところでしょう。
大きなハコモノを海に浮かべて「オレは凄いんだぞう」と威張る時代は、かの南米の地においても終焉を迎えたということですな。

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