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2011年1月12日 (水)

破断界を越えつつあるか英国海軍?

些か古い話で恐縮なのですが、次期中期防のエントリーがこのところ
続いた事でその関連で備忘録的に・・・。

昨年10月、英国政府は”SDSR”(Strategic Defenceand security Review”)を発表し、今後の英国国防政策と戦力構成を明らかにしました。
英国版防衛計画大綱と言えましょうか。
その中身は昨今の深刻な経済財政状態を踏まえての、国防力の更なるリストラ方針。
国家安全保障に必要不可欠な核戦力や国益追求、国際貢献の尖兵となる通常戦力については相応に維持しつつ、それ以外の特に冷戦型重装備をバッサリと切り捨てまた例え必要な戦力であっても、優先順位が相対的に低下しているものについてはあえて切り捨ても辞さないという極めてシビアな観点に立脚したものと申せましょう。
英国国防予算は2010-11年で約367億ポンド(1ポンド=130円として約4兆7700億円)。
英国政府は今後4年間で国防予算を8%削減する方針との事で、この額から8%削減となれば、2015年のそれは4兆3900億円程になるのでしょう。
(日本の次期中期防総額は23兆4900億円で、年平均では約4兆7000億円程)
また兵力は三軍合計で現在の17万5千人から15万8千人に削減。
国防省職員は現在の8万5000人から2万5000人に削減(公務員全体では4年間で49万人削減!)だそうで、この辺りの人件費削減は歳出削減にかなりの効果がありそうです。
日本ではとても考えられない削減規模であります。
しかし国防はまだ手厚く保護されているほうで、社会保障は文字通りバッサリ。
今後4年間で社会保障関連歳出を約180億ポンド(2兆3900億円)を削減する方針だそうで。
我が国ではこのような事を議論の俎上に乗せただけで政権は即死、次期総選挙での下野は確実でしょうね。

さて私にとって最も興味深い英国海軍の今後について・・・
英国海軍の戦力削減は最早量的に破断界を越えつつあるのかなぁと、一世紀前の世界最強海軍ロイヤルネイビーを振り返って見ると、実に感慨深いものがあります・・・。

前述PDF22ページによれば、”Future Force 2020”
における英国海軍の戦力構成は、下記の如し。

戦略ミサイル原潜 4隻:バンガード級。
後継についての決定は次期総選挙(2016年)後へ五年間先送り。

攻撃型原潜7隻:アスチュート級。

空母1隻:クイーンエリザベス級1隻。
二番艦の処遇は未定。搭載機はF-35BからCに変更し、それに伴う艦の改設計で就役は2020年に遅延。

水上戦闘艦19隻:45型ミサイル駆逐艦6隻、
23型フリゲイト13隻。
2020年以降は可能な限り速やかに23型フリゲイトを26型フリゲイトに更新。

また、英国空軍が運用する海上哨戒機は、次期哨戒機ニムロッドMRA4計画が「キャンセル」という報道もあって、ウィキペディアのニムロッドのページの参照項目のリンク先にあった9機調達とどちらが正しいのか気になるところです。
計画自体キャンセルとなると、英国はその周辺海域での効果的な航空対潜/洋上哨戒能力を失う事になります。
短中期的にロシア原潜が英国(及びEU/NATO諸国)の脅威になる事はあまり考えられませんけれど、洋上でのテロや海洋権益を巡る争いについてはその可能性は常に考慮しておく必要があり、海上哨戒機全廃は空母や水上戦闘艦削減以上に英国の安全保障に
とって重大な結果を招きかねないと思うのですが・・・。
英国は我が国の海保や米国の沿岸警備隊のような組織を持っておらず、海上警備哨戒においても軍がその責を負っていますからなおの事です。

さて良くも悪くも万事スローモーな日本とは異なり、決定後の行動が素早いのが英国流。
保有する軽空母3隻のうち、モスボール中で本来新型空母の一番艦完成まで維持する筈だった「インヴィンシブル」はオークションにかけられ、「アークロイヤル」は昨年末に早くも解役。
「イラストリアス」は2014年の退役が決定し、また搭載する英国空軍ハリアーが昨月退役した事で、今後3年間は単なるヘリ母艦として運用される事に。
水上戦闘艦も4隻保有する22型フリゲイトバッチ3が今年春までに退役して、フリゲイトは23型13隻のみに。

日本的な考えでは、要員確保と技量維持の観点からも新型空母「クイーンエリザベス」完成までは、少なくとも軽空母一隻を現役に留め置くのが常道。
一度削減された人員を新空母完成に合わせて再び確保というのは、一度削減が実行されたらそれが既成事実化されて回復が困難な我が国では考えられない事です。
まぁ、現役に置いても肝心の搭載する戦闘機(ハリアー)も無く飛ばすのは哨戒ヘリのみであれば、英国の直面する当面の軍事的脅威(対テロ戦)には役に立たず維持にカネがかかるだけで無駄という割り切りもあったで
あろうと推察は致します。
一方でヘリコプター揚陸艦「オーシャン」は維持されるので、新型空母はこの艦と直接交代する事として新空母に必要な最低限の要員を確保、就役後はコマンドー部隊の輸送任務を兼ねるのかもしれません。
最高級のハイブリッド・キャリアーと言えましょうか。
また新型空母二番艦は海外売却の他に「オーシャン」後継としてヘリコプター揚陸艦に充てるという話もあるものの、あれだけの巨艦をコマンドー母艦専任というのは俄かには信じ難い構想なのであります・・・。
米海兵隊のような重装備ならいざ知らず、軽快軽量を旨とする英コマンドーにはちょっと宝の持ち腐れ感あり。

・・・しかし近年の英国の国防政策の実際を見るに、この”Future Force 2020”もどこまで実現できるのやら。
新型空母の運用開始と時を同じくして、パンガード級SSBN後継計画発動と26型フリゲイトの調達開始が重なるのです。
そして英国海軍の近年の調達計画で予定通り事が運んだ試しはほとんどありません。
空母は当初2隻からとりあえず1隻に。
45型ミサイル駆逐艦は当初12隻建造予定が8隻になり最終的に6隻に切り下げ。
アスチュート級は当初スイフトシュア級後継の筈だったのがいつの間にやらトラファルガー級の後継へ。
そういった過去を踏まえた私見では、バンガード級後継の新型SSBN建造(英国が核を手放すオプションは考え難い)の引き換えに26型フリゲートは建造隻数を8隻程度に切り下げて性能も妥協、空母は運用経費に耐え切れずに就役後十年経たずに海外売却・・・?。

色々言われている我が国の次期中期防ですが、勿論英国とでは直面する脅威の質と量と現実性が違うとはいえ、まだ「頑張っている」ようにも思えます。
もっとも五年後の次々期中期防策定時には防衛計画大綱が再度見直され、BMD(英国の核戦力に相当する国家安全保障の根幹)以外の戦力大幅削減という英国並みにドラスティックな話になっているやもしれませんね。

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